RIKI SAITO

テーラー
齋藤 力

スーツを着る、仕立てる美学を
探求するテーラー


古着のアメリカンカジュアルに夢中だった高校時代を経て、文化服装学院で最初に学んだのは最先端のウィメンズ・モード。しだいにメンズスーツに魅了され、仕立て職人のテーラーの道に人生を定めた。自身のアトリエ「DORSO」を東京に構えつつ全国を巡る齋藤 力さんの“スタイル”を紐解く。

「電車のなかのスーツとは違う」


齋藤さんがDORSOのオーダースーツについて次のように語った。
「僕が仕立てるスーツは、電車のなかの服とは違います」
社会人の制服として、お洒落と無関係に着ている男性が多いスーツ。でもスーツは高級になればなるほど、所有者の生き方をも左右する美学を内包していく。注文主との対話を繰り返して特別な一着を仕立てるテーラーは、ある意味でパーソナルな人生のナビゲーターに等しいのかもしれない。
オーダースーツは顧客一人ひとりのライフスタイルと密接に関わっている。顧客の好みも反映された服は、テーラーの作品であると同時に顧客の作品でもある。ふらりと店で買った服とは別ものの、輝きを放つ服としてワードローブに鎮座する。


齋藤さんがスーツに興味のある若者たちにアドバイスしてくれた。
「まずはなるべく質のいいものを一着買って着てみることをお薦めします。モードやカジュアルな服を着るのとは別の体験を得られますよ。例えばスーツを着ていたら、地べたにドカッと座ることってないじゃないですか。地べたでパンをかじってる学校生活が別のものに変わっていきます」
興味を持ったら、まず自分で着てみること。それは齋藤さんが文化服装学院時代に自ら実践してきた服との付き合い方でもある。こうしてスーツの奥深さにのめり込んでいった。作り手としてもスーツへの探究心が沸き起こった。
「DORSOのアシスタントたちにもよく言います。『着ることからはじめよう』と。お金を払い買って着ることも大切。そうしないとお客様の気持ちになれませんから。同じ体験をすることが重要です。僕は学生時代に、文化の講師でもあるテーラーの有田一成さんにはじめてのオーダースーツを仕立てていただきました。その後にプロになってからも、世界最高峰とされるアットリーニやブリオーニなどでオーダーを経験しています。知ること、体験することが自分のスタイルにつながっています」


“最高”を知る齋藤さんのアトリエには、驚くほど高級な生地の反物がずらりと並ぶ。大半はDORSOのストックとして購入したものだ。なかにはさほど注文が入らなそうなヒトクセある生地もある。
「ほしくなっちゃうんですよ(笑)。いつも側に置いておきたくなります。お客様に小さな生地見本でなく分量の多い布で仕上がりを判断していただくためにも生地のストックは大切です」
どの分野の職人でも愛用の道具をリース品で済ませることがないのと同様に、テーラーにとっての道具である生地も自前で揃えている。

「スーツを広めたい」と全国に旅立つ

DORSOが表現するスーツスタイルは、齋藤さんが現地修行にも出掛けたイタリアの流儀がベースにある。クラシコイタリアと呼ばれる、手縫いの揺らぎがある軽い着心地のスーツだ。イギリス式のバンカースーツ(銀行員の服装)ともアメリカ式のボックスシルエットともムードが異なる、男の色気を感じさせるもの。


DORSOにはもちろん独自スタイルがある。
「着る人が凛とした自然な雰囲気になるように気を配っています。威圧的にも高圧的にもならないように。大切なのは着る方自身ですから。どんな人が着ても素敵になる服づくりを目指しています」


DORSOのオーダーシステムは、「メイド・トゥ・メジャー」と呼ばれるマスターパターン(型紙)をベースに各サイズを調整していくやり方が中心。一般的に「パターンオーダー」と呼ばれるもの。パターンもゼロから制作するフルオーダーの「ビスポーク」とは工程が異なり、簡略化されているぶん価格が抑えられる。個人のアトリエであるDORSOでも数多くの注文に対応できるメリットも大きい。「より多くの人にオーダースーツの魅力を知ってほしい」という齋藤さんの想いから辿り着いたシステムだ。
一流店で経験を積んだ彼への顧客からの信頼は厚い。メイド・トゥ・メジャーの価格で、ビスポーク並みの満足度を得られると評判である。


スーツの魅力を広めるために、全国でオーダー会も行っている。「トランクショー」と呼ばれるもので、必要な道具や生地を各地に運び入れ、現地の人を招いて受注。仕上がったスーツは郵送で手元に届ける。トランクショー開催のきっかけは「全国の人に会いたい」と思ったこと。
「活動のベースがアトリエのある東京です。全国の人がスーツをどう考えているか、わからないことにモヤモヤした気持ちがありました。『わからないなら出掛けてみよう!』と。そこでしか会えない人がいます。そこでのお客様との関わりが楽しいのです」
2026年7月には、はじめてパリに海外出張。日本の仕立てのレベルの高さ、日本らしい美意識を土産にスーツの本場であるヨーロッパに足を踏み入れた。

文化服装学院で過ごした、
「何が本質なのか」を探った日々

仕立てへの関心の深さは高校生時代に遡る。古着のデニムを独学でリメークしていた。そんな生活を見ていた古着店の店主に「ファッションの仕事に進んだら?」と薦められたことが文化服装学院に入学するきっかけになった。
「どうせ通うなら大きな学校にしようと、ここに決めました。当時目指していた仕事はウィメンズのファッションデザイナー。それと同時に、自身のビジネスをやりたいという明白な目標もありました。独立するのにどんな技術が必要かも考えつつ服を学んだ学生生活です」



転機が訪れたのは、約26万冊もの蔵書量を誇る図書館でメンズスーツの本に出会ったとき。服飾評論家として名高い落合正勝さんの著作だった。
「それまでスーツに苦手意識があったのに、価値観がひっくり返り夢中になりました。バイト代を注ぎ込んでスーツを買って着て、スーツのカッコよさを探る毎日になりました」
好きなファッションの方向性が変わっても、学び続けられるのが文化服装学院のよさでもある。
「通ったファッション工科専門課程では、3年次にメンズコースを選択。東京の“丸縫い”工場に研修にも行きました。学校でみっちりと縫製を勉強したから、工場でもお手伝いできる技術があったんですね。この縫製工場も、その後に研修したイタリアのオーダーアトリエも、メンズコースの先生方に紹介していただきました。鈴木憲道先生や石辺啓道先生などに深くお世話になりました」


服作りの基礎を習得したことで、工場でも、言葉がわからないイタリアでも、就職したオーダーアトリエでも活躍の場を見つけられた。プロとしてのキャリアを日々積み重ね、2022年に念願の自身の店を構えた。店にはオリジナルで製造したデニムやジュエリーも並べている。齋藤さんがカッコいいと思う男性のスタイルの提案が、スーツの枠を越え大きく広がってきた。
オーディオに高級オーディオがあり、車にスポーツカーがあるように、ファッションには美学としてのオーダースーツがある。誇り高き衣服として、スーツを愛する趣味人たちがいる。服装のカジュアル化が加速している社会のなかで、生き残るスーツは齋藤さんのようなこだわりのテーラーによるパーソナルな一着なのかもしれない。

※2026年7月取材


LINKする卒業生

・山根 巧
ファッション工科専門課程 アパレルデザイン科 メンズコース卒業
sartoria Sannoro テーラー
https://www.instagram.com/takumi.yamane/
https://www.youtube.com/watch?v=bvSoI5_ZN_c

・船田勇次
ファッション工科専門課程 アパレルデザイン科 メンズコース卒業
FNT OEM生産管理

「ふたりともメンズコースの同級生。文化に通ってよかったのはこうした仲間たちと出会えたことにもあります。山根はイタリアでテーラーをしています。舩田はDORSOのオリジナルデニムの製造を手伝ってくれており、直接仕事で関わる文化つながりです」

記事制作・撮影
一史  フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポートなどを行う。

Instagram:kazushikazu

関連サイト

INTERVIEW

DORSOオーナー兼テーラー

齋藤 力(さいとう・りき)
ファッション工科専門課程 アパレルデザイン科 メンズコース卒業 2008年卒業

東京出身。高校生のとき独学で古着をリメークしたほどの服への探究心を持ち、文化服装学院に進学。「高級な服はいい仕立てであるべき」という考えから縫製やパターンの技術を中心に学ぶ。在学中に目指す分野をメンズのドレスウェアに定める。本場イタリアでの修業経験を経て日本の著名なテーラーアトリエに就職。独立の夢を抱きつつ14年間勤める。2022年に自身のアトリエ「DORSO」を、東京・新富町駅、八丁堀駅に近いビジネスエリアにオープン。

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Vol.055

Revolution PRスタッフ 館鼻藍花、田中 望

ファッション工科専門課程 アパレルデザイン科 メンズコース卒業

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