古着インスパイアの刺繍アート。
双子ユニットが新たな道を切り開く

双子の兄弟による刺繍作家ユニット「KENDAI」。ユニット名のルーツは、建太さん(写真 左)と大地さん(写真 右)を合わせた呼び名として周囲の人に親しまれていた「けん・だい」。ふたりは言う、「僕らは兄弟というより、友人同士の間柄です」。文化服装学院に通う前から将来は一緒に活動することを決めていたふたり。刺繍に可能性を見出してユニットをスタート。アート制作から音楽シーンまでジャンルを越境する彼らのアトリエを訪ねた。
アトリエワークの日々
ふたりがアトリエを構えるのは、都内のカフェの上階。ギャラリーだったスペースを借りて活動拠点にしている。アート作品も企業から依頼された商品も、すべてここでつくっている。

ふたりの役割は、図案担当が大地さんで、刺繍ワークが建太さん。大地さんがデザインした図案に合わせて建太さんがミシンを踏んでいく。上写真はアート作品として発表する予定の等身大の骸骨をつくっている様子。ミシンは刺繍用の特殊な「横振りミシン」。針が左右に動き、布押さえがないミシンだ。「マスターするまでに10年掛かると言われる難しいミシンです」と大地さん。その言葉を受けた建太さんいわく「購入して使いはじめたのが6年前だから……あと4年必要なのか(笑)」。

作業を眺めていると、服を縫う一般のミシンと比べ掛かる時間がとても長いことに気づく。じっくりと糸を布に這わせていく。作業効率がよくないように思えるが、「それでも手刺繍と比べたら10倍の速度で終わります。KENDAIの活動にはこのミシンが欠かせません」とふたり。

建太さんの作業が少しずつ進んでいく様子を大地さんが静かに見守る。


刺繍ユニットKENDAIの誕生は、文化服装学院のアパレルデザイン科を卒業してからパタンナーとして働いていた大地さんが刺繍にトライしたことがきっかけ。
「趣味で『ベトジャン(ベトナム戦争時代のスーベニアジャケット)』をつくったことがあります。刺繍飾りが特徴のブルゾンです。その刺繍を見た建太が面白がり『一緒に刺繍をやろう』と話し合いました。互いに勤めていた会社を辞めて独立することに」(大地さん)

彼らの世界観のベースはアメリカンクラシックな古着。ベトジャンやスカジャンのようにタトゥーを布に彫り込む発想を独自のアートに応用している。平面の図案が糸により立体的な奥行きを与えられる。そこに軽妙なユーモアを足してポップに仕上げるのが彼らの作風。
「男性的なモチーフをよく使うのですが、僕らの作品を好んでくださるのは意外と女性の方も多いです」とのこと。KENDAIアートの実物を目にすると、かわいらしさのある豊かな表情をよく実感できる。写真で見るとハードに感じても、実物がユーモラスで親しみやすいのは刺繍の温もり効果だろう。見る角度と光の当たり方で表情を変える楽しさもある。

写真に手を加えて立体的にしたり、刺繍によるアート表現の可能性は無限大。


企業からのオファーなどにより数多く商品をつくるときは、コンピューター制御の刺繍ミシンを使う。スピーディに量産できるマシンだが、プログラムする工程が必須だ。
「パソコン作業のプログラムを主に自宅で行っています。複雑な刺繍のときはプログラムだけで何日も掛かるときも。刺繍したサンプルを見てプログラムを修正することもよくあります。」(建太さん)
ときにアナログな横振れミシン以上に手間が掛かる自動マシンは、必要に応じて使うのがコツのようだ。

この日に刺繍ミシン「TOYOTA ESP-9100NET」を動かしたのは、ラッパーのアフロさんが販売するワッペンづくりのため。
「すごく好きなラッパーさんです。偶然の出会いがあって知り合い、僕らにグッズをオーダーしてくれる間柄になりました」(大地さん)

刺繍はテキスタイルを使う様々な分野と親和性がある。ファッション、家具、車などの内装、ぬいぐるみなどのグッズといったあらゆるところに進出できるポテンシャルを秘めている。
アート展覧会で作品発表


上写真2点は、東京駅のエキナカにあるギャラリー&アートショップ「ビニール トーキョー(VINYL TOKYO)」で2026年5月に開催された個展「EMBROIDERY STUDIO」の様子。刺繍技法を駆使した作品を展示販売した試みだ。そして11月には、大阪・心斎橋に7月にオープンした「ビニール アンダーグラウンド(VINYL UNDERGROUND)」での個展開催も決定!
詳しくは上記ビニール アンダーグラウンドのインスタグラムにアップされる情報をチェック。


現在のKENDAIは出展する作品づくりで忙しい日々を送っている。ここに掲載したのは新旧混じった刺繍パネル。大阪展で実物を見られるかもしれない作品たちだ。形を切り出した数センチの木材パネルに、刺繍した布を貼り付けた作品たち。後ろにフックがつき、壁に掛けて飾れる。
モチーフは古いホラー映画、日本の「へのへのもへじ」、ビリヤードの8ボールをさくらんぼに見立てたものなど、王道と呼べる有名な図案が中心だ。
「オールドスクールのタトゥーカルチャーが自分たちの根底にあります。モチーフを探すときも古い世界から見つけてくることが多いです」
ふたりがそう話すように、KENDAIの刺繍アートにはどこか懐かしさが漂う。既存のものを生まれ変わらせる手法が多くの人を夢中にさせる。
音楽シーン、スポーツシーンでも
韓国のBIGBANGが20周年を迎えた26年8月の記念すべきシングル「「BiiiG」の衣装制作にKENDAIが参加。PV冒頭でG-DRAGONが着用している学生服のような赤ジャケットの刺繍の一部を担当している。刺繍作家でファッションブランド「タナカダイスケ」を手掛ける田中大資さんがG-DRAGONの衣装を制作し、その製造プロセスでKENDAIに声が掛かった。

大相撲の生配信ライブ「ABEMA大相撲2025」のビジュアルでインパクトのある刺繍を手掛けたのもKENDAI。このためにつくった様々な刺繍が撮影されデータ化して相撲取りたちとのミックスデザインになった。光を当てた光沢感と立体感にこだわった刺繍が、グラフィックに大きな動きを与えている。
「いつか一緒に」とふたりで文化服装学院に

将来を決める高校生のとき、ばく然と「いつかアパレルを一緒にやれたらいいね」と互いに文化服装学院への進学を決めたふたり。学費を自分たちでアルバイトして稼ぎながら、皆勤賞を取るほど真面目に学校に通った。
入学したコースは服装科だったものの、より専門性の高い学習をするためファッション工科専門課程へ転入。別の知識と技術を身に着けるほうが役立つと考えて、大地さんはアパレルデザイン科を、建太さんはアパレル技術科を選択。卒業後は別の会社に就職するも、大地さんがつくった刺繍のベトジャンをきっかけに独立を決めた。
「そのときは仕事として生活できるかの深い考えなしにはじめました。作家活動をしたいという思いだけで」とふたりは言う。
口コミで仕事を依頼されるようになり、その発注者の多くは文化時代の同級生たち。「アパレルで仕事する同級生たちから仕事が来ることが多いですね。皆がいい歳になり社内で物事を決定できる立場になっています。自分の考えで発注できるようになり、互いに意見を言いやすい僕らに依頼するのだと思います」。アトリエとして上階を借りているカフェは、文化時代の同級生が運営している店。活動を支える舞台でも“文化つながり”が活きている。

アトリエにさりげなく置かれているぬいぐるみ作品。既製品を利用した非売品で、刺繍表現の可能性を探った楽しい試みだ。
マイペースに、しかし着実に活動の幅を広げているKENDAI。刺繍というファッション技法は古来よりあるものながら、身近なポップカルチャーの文脈に位置づけたところに独自のスタイルがある。彼らの作品を直接見たい人、購入したい人は、下記に掲載したKENDAI公式インスタグラムをマメにチェックしよう!
※2026年10月取材
LINKする卒業生 ・水上亮 アートディレクター/グラフィックデザイナー/モーショングラフィックデザイナー 服飾専門課程 服飾専攻科 デザイン専攻卒業 https://www.instagram.com/m__i__z___/ 「ユニクロ、漫画のワンピース、ビームス、アトモスなど大手を顧客に持つグラフィックのクリエイター。元同級生で卒業して15年経ちますがいまも仲が良く、KENDAIの告知グラフィックなどをつくってもらっています」 |
記事制作・撮影
一史 フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。
Instagram:kazushikazu
関連サイト
-
KENDAIの公式インスタグラム。https://www.instagram.com/kendai_k/
INTERVIEW
KENDAI
西 大地(にし・だいち)
ファッション工科専門課程 アパレルデザイン科 2011年卒業
西 建太(にし・けんた)
ファッション工科専門課程 アパレル技術科 2011年卒業
ともに千葉出身の双子ユニット。古着好きが高じて共に文化服装学院に入学。卒業して大地さんはアパレルのパタンナー、建太さんは群馬県のブランドでファッション制作の職に就く。インスタグラムに載せた刺繍作品を見た知り合いのセレクトショップがイベント企画を提案。それを気に独立を決めKENDAIをスタート。エイ・ネットのプロダクトブランド「NYA-」とコラボするなど、ファッションシーンともリンクする作家活動を続けている。
NEXT
次回のVol.57は、「ファッション プライズ オブ トウキョウ 2027」受賞でファッション界を騒がせているTANAKAでクリエイティブ ディレクターを勤めるクボシタ アキラさん。ユニクロ出身でアメリカ・ニューヨークと東京を往復する生活を送る、ユニークな経歴のクボシタさんの仕事現場に密着!
INTERVIEW
KENDAI
西 大地(にし・だいち)
ファッション工科専門課程 アパレルデザイン科 2011年卒業
西 建太(にし・けんた)
ファッション工科専門課程 アパレル技術科 2011年卒業
ともに千葉出身の双子ユニット。古着好きが高じて共に文化服装学院に入学。卒業して大地さんはアパレルのパタンナー、建太さんは群馬県のブランドでファッション制作の職に就く。インスタグラムに載せた刺繍作品を見た知り合いのセレクトショップがイベント企画を提案。それを気に独立を決めKENDAIをスタート。エイ・ネットのプロダクトブランド「NYA-」とコラボするなど、ファッションシーンともリンクする作家活動を続けている。



