TOMOHIKO UJIIE

髙島屋
MD本部 マーチャンダイザー
氏家友彦

メンズバイヤーを束ねる、
髙島屋セレクトショップのキーパーソン

大手百貨店である髙島屋MD本部のメンズバイヤーたちを束ねつつ、自らも服の買付けやブランドとの共同企画などで日々動き回る氏家友彦さん。国内外のエッジーなブランドを並べる「CS ケーススタディ」を軸に、大人な百貨店のイメージに新風を吹き込むクリエイティブパーソンだ。髙島屋と文化服装学院との結びつきにも貢献する彼のデイリーワークを追った。

マーチャンダイザーとして

「マーチャンダイザー」とはアパレル業界で企画・生産・販売・予算・マーケティングなどを管理する仕事のこと。いわゆる「プロデューサー」に近いのかもしれない。ビジネスに結びつく活動全般が業務だ。氏家さんはこの肩書を持つ髙島屋の社員。彼のセンスが遺憾なく発揮されているのが、髙島屋内の自主編集ショップ「CS ケーススタディ」である。
百貨店は扱う商品の中心が「消化仕入れ」(ブランドのテナント入店を除く)。メーカーから一時的に預かる形で店頭に並べ、売れ残ったら返品するシステム。一方でCS ケーススタディのやり方は「買い取り仕入れ」。自分たちが買い取ったアイテムを店に置く。街のセレクトショップと同じ業態だ。売れ残ったら在庫を髙島屋が抱えるリスクはあるものの、自由に売場づくりできる。ブランド別注アイテムをつくったり、旬のブランドをいち早く並べるなど個性的な品揃えもしやすい。

ウジョー展示会でのバイイング

左の人物はウジョーの西崎デザイナー。「氏家さんが着てるベストと僕のパンツは同じ素材のセットアップ。服被っちゃったけど、いいのかなぁ(笑)」と照れくさそう。

氏家さんの仕事の現場を追って、ウジョーの展示会を訪ねた。パリでコレクション発表を続けるデザイナーズで、設立者&デザイナーはパタンナーでもある西崎 暢さん。氏家さんがウジョーの魅力を次のように語った。
「ふだんの服装をなにか1着ウジョーに変えるだけでお洒落になります。質もよくて髙島屋のバイヤーたちにもファンが多いんです。今日僕が着ているベストもウジョーのもの。スーツ生地のような上品な素材で、どんな服装にも合わせやすい服です」
ウジョーとの関わりは、同ブランドがメンズを始めた頃に遡る。

西崎さんはつくり手の立場で自らアイテムを説明して質問にも気軽に答えてくれる。展示会では解説を営業スタッフに任せるブランドも多いなかで、頼もしい姿勢のクリエイターだ。


ウジョーのようにクリエイティブなブランドを店に並べることが、CS ケーススタディには重要なようだ。
「例えばイタリアのジルサンダー、フランスのY/プロジェクト、スウェーデンのアワーレガシーのように世界各国のブランドを扱うこともCS ケーススタディの軸のひとつです。一方で日本を代表するブランドもとても重要です。増えているインバウンド(来日する海外客)への訴求力にもなりますし、日本ブランドを品揃えすることに意義を感じています」

氏家さんは担当バイヤーたちがセレクトするまで口を挟まず、最後に軽く眺めていく。「これいいね!」と会話が弾む。

真剣な買付けの最中も笑顔が飛び交う。髙島屋のスタッフは右端から氏家さん、岩佐脩平バイヤー、谷地森 健バイヤー、日本橋店の池田千夏アシスタントショップマネージャー。

氏家さんは付き合いの長いウジョーの展示会でも、買付けをCS ケーススタディ専属の若手バイヤーたちに任せている。彼自身は西崎デザイナーから新しい試みを聞いたり情報収集に熱心だ。
「ウジョーのメンズの買付けを行うのは、髙島屋のなかでも異例といえる若いバイヤーたち。百貨店のバイヤーは経験を積んだ年配者が多いのですが、CS ケーススタディでは経歴の浅い者も起用しています。次世代の感覚を持つ人たちに第一線で仕事してもらうことで新しい顧客の開拓にもつながりますし、我々にもいい刺激になります」
それでも現場に氏家さんのようなベテランが付き添うだけで、互いの円滑な関係性が維持される。信頼感がモノを言うファッションビジネスらしい一幕だ。

現場主義の行動力

各国のブランドが集まる合同展示会にて、手前の人物は、主にスポーツ・ゴルフ・アウトドアを担当する近藤篤司バイヤー。

ウジョーと同じ日に訪れた別会場が、セールスエージェント「香川卸事業事務所」が開催した大規模な合同展示会。欧米、アジア、日本の尖ったブランドがずらりと並ぶ有力な展示会だ。氏家さんは各ブースでポップアップショップの可能性を話し合ったり、リサーチを続けていた。

ユニークなインテリアブランドに目を留めた氏家さん。右の人物は香川卸事業事務所の高田侑毅さん。

展示会になるべく多く足を運ぶことが、氏家さんの日常のようだ。
「日頃の仕事のうち、もっとも時間を割くのが社内外の打ち合わせです。そしてもうひとつが展示会巡りですね。年2回のコレクション時期にパリ、ミラノ、ロンドンなどに出張しますし、国内出張も月1〜2回ほど。外出がとても多い仕事だと思います。マーチャンダイザーや髙島屋社員というより自分のやり方かもしれませんが、人に会いリサーチに時間を費やし情報感度を高めることが仕事に欠かせないと考えています」

ドラえもんと一緒に店頭で接客!?

髙島屋新宿店にて開催された、ドラえもん×アンリアレイジのポップアップショップ。©Fujiko-Pro

髙島屋新宿店の駅直結入口に、なんとドラえもんが出現!シックな売り場がポップに装いを変えた。アンリアレイジがドラえもんとのコラボコレクションをフィーチャーしたポップアップショップ。9月に開催されたこのイベントにも氏家さんが携わっている。同コレクションの初期段階から商品企画に関わってきたそう。老舗の百貨店とドラえもんという意外な組み合わせが楽しい。

高い天井を活かしたダイナミックな空間づくりは百貨店イベントならでは。©Fujiko-Pro

髙島屋に入社する以前にイベント会社で働いた経験もある氏家さん。こうした空間づくりに過去が活かされているのかもしれない。
「僕はゼロからモノをつくれる人間ではないんです。得意なのは組み合わせ。例えば髙島屋のなかにも空間づくりが得意な人がいて、外部にはファッションの優れたつくり手がいます。そういう人たちの掛け合わせをするのが僕の役割です」

太陽光で色が変わるハイテク技術を活かしたTシャツを店頭でデモンストレーション。手に持つのは太陽光と同じ効果がある紫外線投射ライト。©Fujiko-Pro

髙島屋だけの限定プルオーバー。漫画の主要メンバー大集合の貴重なアイテム。©Fujiko-Pro

接客の仕事について氏家さんが以下のように語った。
「過去にセレクトショップやコレクションブランドで販売仕事をしたことがあります。当時は接客も楽しくやっていました。いまは売り場に立てる日や時間は限られますが、積極的に顔を出すようにしています」
現場主義の氏家さんにとって、来店する客と対話して得る手応えも仕事のヒントになるのだろう。

文化の学生がデザインした
再生糸のカシミヤニット

髙島屋と文化服装学院がタッグを組んだコラボ企画がある。髙島屋が取り組み続けるサステナビリティプロジェクト「Depart de Loop(デパート デ ループ)」の一環。髙島屋のお客様から提供された中古のカシミヤニットを再生糸に戻し、その糸で新しいニットを生み出す試みである。

コラボの初回となった2023年に製品化されたニットを着たモデルコースの学生たち。写真:菊地 史。2023年はインダストリアルマーチャンダイジング科&ニットデザイン科学生によるデザインが採用され販売された。

髙島屋カシミヤ担当バイヤーと学生との打ち合わせの様子。写真提供:髙島屋MD本部メンズバイヤー 米島力伊

「学生とやり取りする現場は、これも髙島屋の自主編集売場『サロン ル シック セレクト』のバイヤーに担当してもらっています」と氏家さん。
文化と髙島屋との関わりのきっかけは、カシミヤ売場の担当者が文化に声がけしたこと。
「社内でも文化との取り組みを始めるとき、上の立場の人からすぐに『いいね、やろう』と反応が返ってきたほど好評なプロジェクトです。できる限り学生さんのデザインを尊重して製品化しています。販売開始時期には学生さんに店に立って接客してもらったりも。お互いがいい形で発展していければいいですね」


【第二弾!】文化服装学院×髙島屋
「カシミヤ再生プロジェクト」
https://www.bunka-fc.ac.jp/ct-collabo/42860/
今秋に発売予定のサンプルの一部。カシミヤ再生糸の混率は約30%で、ほかはウール。

髙島屋本社内でメンズバイヤーたちがコラボウェアをチェック。この企画の現場担当者は、写真右端の米島力伊バイヤー。

目の肥えたプロが自ら着て出来栄えを確かめる。「なるほど、このディテールがこだわりなんだね」と声が飛び交う。
3世代家族の誰もが着られるニットを目指した仕上がり。モードすぎず身体に沿うジェンダーレスデザイン。

またこの取り組みをきっかけに氏家さんは、髙島屋では前例のなかったインターンシップも実施。インダストリアルマーチャンダイジング科の4名をMD本部で受け入れた。
「メンズ、レディースの様々なカテゴリーのバイヤーに同行し日々の業務を体験してもらいました。学生さんにはハードだったと思います(笑)。わたしがご一緒したカリキュラムはヨシオクボのショー、タークの展示会、下北沢の古着屋ノイルとの商談、ゴルフ売場の試打室体験だったと記憶しています。研修生として来ていただいた4名の方には、この就業体験から何かを感じ取って今後に活かせてもらえたら嬉しいですね」

自身がデザインした服が製品になり販売されるなんて、学生には夢のようなチャンスだ。

百貨店への就職を目指す人へ

百貨店ではいまどのような人材が求められるのだろうか?
「まずファッション全般が本当に好きな人であること。文化の学生なら大半の人がファッション好きなのでしょうが、情熱を持って仕事する気持ちがあるかどうか。さらに接客が好きなことも大切でしょう。我々は別注企画などの服づくりにも取り組んでいるものの、純粋に生地や服をつくりたい人ならアパレル企業に就職したほうがいいと思います。百貨店はお客様にモノやコトを販売する業態ですから」
それでは氏家さんが百貨店、または彼が率いるCS ケーススタディに向くと思う資質とは?
「“センス”でしょうか。それは自分のフィルターを通してモノを見る目線のこと。個性の大切さでもあります。たくさんの情報を吸収しても、アウトプット(発信)したときに個性がないと奥行きが生まれません。個性とは尖った感性のことばかりではなく、人と違う視点を持っていることを指します。百貨店の取り扱い商品はファッションに限らず多岐に渡ります。様々なことに興味を持ち感性を磨くことで個性を身に着けられれば、仕事に役立つ可能性があるのです」

氏家さんはファッション関連を中心に様々な仕事を経験し、中途採用で髙島屋の社員になった。彼のように大きな組織での活躍を目指す人も、文化生の強みである個性やファッション界とのコネクションを忘れずに夢を追っていこう。

※2024年9月取材

TakashimayaTV:神戸の気鋭セレクトショップとコラボ!TAAKK別注カーディガン完成!
TakashimayaTV:日本初上陸クラブでサステNIGHT開催!FACETASM限定カプセルコレクションをローンチ!  


LINKする卒業生


・森川拓野
ファッション工科専門課程
アパレルデザイン科卒業卒業
ターク デザイナー
https://www.instagram.com/taakk_official/

・落合宏理
ファッション工科専門課程
アパレルデザイン科 メンズコース卒業
ファセッタズム デザイナー
https://www.instagram.com/facetasmtokyo/

・宮本晋二郎
ファッション流通専門課程
ファッションディレクター専攻卒業(現:ファッション流通専攻科卒業)
セールス

「上に上げた3名の文化つながりは、いま仕事で関わりが深い人たち。デザイナーの2名は別注企画やイベント企画でご一緒させていただいています(※ 上部に掲載したYouTube動画参照)。CS ケーススタディでは彼らの通常コレクションも販売中です」

記事制作・撮影
一史  フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。

Instagram:kazushikazu

関連サイト

INTERVIEW

髙島屋
マーチャンダイザー
MD本部 紳士服・紳士雑貨・スポーツ部 担当部長
氏家友彦(うじいえ・ともひこ)
ファッション流通専門課程 スタイリスト科(現 ファッション流通課 スタイリストコース)1999年卒業

宮城出身。美大進学を目指した高校時代にファッションの道に進むことを決めて文化服装学院に入学。卒業後にセレクトショップに勤め、のちにコレクションブランド、イベント運営会社などで様々な職業を経験。髙島屋の採用募集を知り2009年に入社。店舗にてサロン ル シック セレクトのマネージャーやバイヤー業務を経て現職に。

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Vol.038

パタゴニア日本支社
リペア担当
佐藤美月

服装科卒業

INTERVIEW

髙島屋
マーチャンダイザー
MD本部 紳士服・紳士雑貨・スポーツ部 担当部長
氏家友彦(うじいえ・ともひこ)
ファッション流通専門課程 スタイリスト科(現 ファッション流通課 スタイリストコース)1999年卒業

宮城出身。美大進学を目指した高校時代にファッションの道に進むことを決めて文化服装学院に入学。卒業後にセレクトショップに勤め、のちにコレクションブランド、イベント運営会社などで様々な職業を経験。髙島屋の採用募集を知り2009年に入社。店舗にてサロン ル シック セレクトのマネージャーやバイヤー業務を経て現職に。

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パタゴニア日本支社
リペア担当
佐藤美月

服装科卒業