TOMOKO TAKAMATSU

ディプトリクス
営業
高松朋子

海外の気鋭ブランドを扱う、
ディストリビューターの仕事とは ?

文化服装学院の卒業生たちの現在を追う、“文化つながり”のインタビュー集「LINKS(リンクス)」。今回ご登場いただくのは、海外ブランドを日本展開する会社「ディプトリクス」に勤める営業スタッフの高松朋子さん。
“セールス”とも呼ばれる営業職の主な仕事は、担当するブランドを店に販売すること。店に立つ販売員は訪れた客にアイテムを売るが、営業はバイヤーといった店の運営側に売る。相手にするのはファッションのプロたちだ。ポップアップショップらの企画も手掛け、デザイナーにデザインを提案することもある。
ファッションセンスを存分に活かせる営業の魅力を、高松さんのケースで紐解いていこう。

●仕事① 買い付けて、売る

ディプトリクスが2021年から取り扱うオーストリア発ホームグッズの「ウィナータイムズ(WIENER TIMES)」。高松さんの担当ブランドだ。掲載写真はブランドのルック。

ディプトリクスは海外ブランドを自分たちで買い付け、それを日本の店に卸す“ディストリビューター”と呼ばれる販売代理店。ブランドと販売先の仲介役のみを行う“エージェント”と違い納品などの物流も行い、さらに日本でのブランド戦略を任される面白さがある。ディプトリクスの取り扱いブランドはベテランのドイツ発「BLESS(ブレス)」から、気鋭の「BOTTER(ボッター)」「ATELIER SOVEN(アトリエ ソヴェン)」「CASABLANCA(カサブランカ)」らに至る個性派揃い。先端モード好きがワクワクするラインナップだ。社員10名の小規模な会社がこれらの国内展開を一手に担っていることに驚く人もいるだろう。
「好きなものを売れるのがこの会社のよさです。営業職でも流通、PRらのすべての動きを把握できます。私たちはいわばひとつのチームです」
と高松さん。取り扱いブランド自体もスタッフが少人数で、お互いの顔が見えるから関係性も密になる。
「デビューから2〜3シーズンの若いブランドに着目するのがディプトリクスのスタイル。一緒につくり上げる余白がたくさんあるのが魅力です。日本で知名度をアップさせ売上が定着するように力を注ぎます。彼らの拠点は主にヨーロッパやアメリカで、想定されたターゲット層は白人や黒人が中心。アジア人とは肌色も志向性も違いますので、日本向けアイテムを提案してつくってもらうこともあります」

こうしてできあがったコレクションサンプルを日本に取り寄せてオーダー展示会を開催。招くのはドーバーストリート マーケット ギンザ、三越伊勢丹、インターナショナルギャラリー ビームス、アディッション アデライデらの国内有数の一流バイヤーたち。彼らと商談して買い付けられたアイテムが店頭に並び、私たちの手に届くのだ。

21年12月に東京「ユナイテッドアローズ&サンズ」で行われたウィナータイムズポップアップショップの様子。
同じく21年5〜6月にドーバーストリート マーケット ギンザで行われたボッターのポップアップショップ。

●仕事 ビジネス仕事との出会い

ブレス22年春夏ルックには、若手注目デザイナーのニコロ・パスクァレッティがモデルで登場。彼の友人がブレスでインターンをしていたことがきっかけで、ディプトリクスがディストリビューターとして日本展開をはじめた。

高松さんが強く感じる仕事の魅力は、人との深い関わりにある。彼女いわく、
「幅広いバイヤーさんとのお付き合いが楽しいです。ファッションの営業職はものの売り買いという側面以上に、人と人として話ができる関係性を築ける仕事。パリコレに行ったり、デザイナーと密な話もできます」
高松さんにはこの記事を通じて学生に伝えたいことがある。それはビジネスという仕事を知ることについて。
「ビジネスの側面からファッションに関わる道があることに、アパレルデザイン科の学生だったときには気づけませんでした。フランスの例のように恒常的なインターン制度が日本でも確立されて、学生が現場体験できる機会が増えればいいと思っています。ショーピースをリアルな服に落とし込むビジネス発想が、デザインの重要な側面であることも学校では学びにくいこと。当時の授業では服が消費者の手に渡る過程をあまり教えられませんでした。選ぶコースによって授業内容に違いはあるのでしょうが、どのコースでもつくることと売ることの両方の面が示されれば、将来選ぶ道が広がるでしょう」

ブレス19年春夏のルックに出たインターンのジャン・クリストフは、同ブランドでのインターンを経てその後ブレスに入社。18年に東京「シボネ」で行われたイベントでは彼がブレスの代表として来日して、ディプトリクスとともに設営を行った。

高松さんは洋服を見に店に行くことが大好きな学生だった。「デザインの仕事に向かない」という漠然とした気づきのまま職に就かず卒業。オーストリアの「ウエンディ&ジム」が東京・品川にあった原美術館でイベントを開催したときモデルとして参加する機会があり、ディプトリクスを知って「こんな仕事あるんだ!」と応募して入社した。偶然の出会いが彼女のその後を決めたのだが、「卒業前に知っていたら」という思いは拭えない。確かにインターンで現場に行き働く人々の様子を眺めれば、様々な職業を感じ取れるし、何が自分に合うかも実感できる。新卒にありがちな理想と現実のギャップの悩みも減るだろう。学生の社会体験は、受け入れる会社の姿勢も問われる日本のファッション界の大きな課題だ。

●学生時代 「服をたくさん買ってました」

テレワークが進み、自宅で働きながら東京・表参道のオフィスに顔を出す日々。現在、お腹の中に2人目の子供がいるワーキングマザーでもある。

高松さんにどんな学生だったかを尋ねると返ってきた答えは、
「皆勤賞を取る真面目な学生。課題もちゃんとやってました」
とくに深い思い出があるのは文化祭。2、3年でショーモデルを務め、それぞれ「特別な2ヶ月間」を過ごした。その忙しい日常の合間に熱心だったのが店通いである。
「ものすごく買い物してました。たくさんの服を見てきたのが仕事に役立っています」
若い時期に夢中になったことは、その人の本分なことが多い。何を好きかに気づけると、将来のヒントが見えてくるかもしれない。
彼女はネット購入が標準になったいまの時代でも、学生にはなるべく店に行ってほしいと願っている。接客されれば人に言葉で服を伝えるやり方を学べる。コミュニケーション力も身につけられ、知らなかったファッションに出会うこともできる。
「服づくり以外のことも知っておけば、きっと将来に役立ちます」
売上を取ってブランドを存続させる “ビジネス”。この言葉の裏側には、シーンを生み出すクリエイティブな活動が隠されている。

※2021年12月取材。

LINKする卒業生

・有馬智子(アパレルデザイン科卒業)
百貨店、商業施設に店を持つ下着ブランド「ランジェリーク」のクリエイティブディレクター。
https://www.instagram.com/langelique_official/
https://www.langelique.co.jp/

「アパレルデザイン科の同級生で大切な親友。学生時代の友人は損得勘定なく付き合えるからいいんです」

記事制作・撮影(ポートレート)
高橋 一史 ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。モノ書き・編集・ファッション周辺レポート・撮影などを行う。

一般公開メールアドレス:kazushi.kazushi.info@gmail.com

関連サイト

INTERVIEW

ディプトリクス
営業
高松朋子(たかまつ・ともこ)

1979年、東京生まれ。高校卒業後に1年間のフリーター経験を経て文化服装学院に入学。2001年、アパレルデザイン科を卒業、ディプトリクスに入社。営業職として現在に至る。

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ディプトリクス
営業
高松朋子(たかまつ・ともこ)

1979年、東京生まれ。高校卒業後に1年間のフリーター経験を経て文化服装学院に入学。2001年、アパレルデザイン科を卒業、ディプトリクスに入社。営業職として現在に至る。

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