TAKUYA MORIKAWA

ターク
ファッションデザイナー
森川拓野

パリコレに挑戦し、世界をターゲットにするメンズデザイナー

 

文化服装学院の卒業生たちの現在を追う、“文化つながり”のインタビュー集「LINKS(リンクス)」。今回のフィーチャーは、自身のメンズウエアのターク(TAAKK)を手掛ける森川拓野さん。2022年6月にはパリメンズコレクションの公式スケジュールでショー開催が予定されている、世界に羽ばたく話題のデザイナーだ。キャリアを積んだ森川さんの仕事に向き合う考え方や、若い学生へのアドバイスは必読!

仕事① ファッションショーというプレゼンテーション

近代建築の国指定重要文化財「自由学園 明日館」で開催された21年春夏コレクション。
ジャケットをタックインし、太いパンツを穿く緩急のあるシルエット。
ハイネックのシャツでノーブルな印象をつくった新時代のドレスアップ。

ここに掲載したショールックは、タークの2021年春夏コレクション。コロナ禍で集客数が限られるなか、一日のうち数回にわけたプレゼンテーションでショーが開催された。注目されたのは、森川さん自身がマイクを片手に解説するショーだったこと。クラシックなオートクチュールの発表会のごとく、一点一点のルックを彼が丁寧に語った。モデルが目の前を足早に通りすぎても、デザインの思想まで伝わる素晴らしいプレゼンテーションだった。さらにショーが終了したあと会場にモデルをずらりと並ばせ、近くでじっくりと眺め服に触れられる演出までプラス。フランク・ロイド・ライトが設計した歴史的な建築も堪能した来場者は、皆が一様に充実した時間を過ごしていたようだ。

心に訴えかけるショーは、6月に森川さんが参加するパリコレでも見られるかもしれない。彼がパリへの意気込みを語った。
「2年半ぶりのパリでのショー発表です。長いことコロナで渡航できなかったから発表が楽しみです。パリコレを主催するサンディカの公式ショー枠で行います。実は日本のメディアで単にパリコレと紹介されるショーは、『ショー枠』『プレゼンテーション枠』『非公式』にわかれていて、現地での扱いが異なるものなんです。タークは1番上のカテゴリーで勝負できるので、それに誇りを持って頑張りたいと思っています」

美しいテキスタイルと、それを最大限に活かしたアイテムデザインが森川さんの持ち味。

21年春夏のショーでは森川さんが自ら服を解説。来場者は話を聞きながらモデル着用のルックを眺めた。

「パリのショーでやりたいこと?なによりも、世界中から集まった人たちに洋服をちゃんと見せたい。東京ではコロナ禍でもバイヤーやジャーナリストに直接見てもらえたけど、海外は写真や映像だけだったから」
しっかりとつくったものを、しっかりと見せる。各国の人々も、彼の思いを真摯に受け止めることだろう。

仕事 展示会でビジネスも着実に

多くの人が来場しやすい渋谷の会場を借りて開催した22年春夏コレクション展示会。


異なる糸でグラデーション織りの布をつくり、テーラードとブルゾンを一着にドッキングさせたジャケット。

華やかなファッションショーはあくまでも新作のお披露目を目的にしたイベントだ。バイヤーが店で売るアイテムを買い付けるため訪れる展示会こそが、ブランド運営に必要な資金調達の重要な場である。森川さんは展示会でも自ら来場者に服のエッセンスを丁寧に説明する。営業スタッフ任せにするデザイナーもいるなかで、ここでも彼のやり方は人の心を掴んでいる。
「デザイナーは人付き合いが苦手でいい、なんて絶対間違ってる。デザイナーはモノづくりにおいて中心的な仕事ですが、全部を自分ができるのじゃないから人に頭を下げられないといけません。ファッションブランドの運営において、いちばんと言っていいほど大事なのは人間関係。服をつくってくれる工場さんへの発注書にもひとこと、『よろしくお願いします』と書くだけで印象がよくなるものです。ちょっとしたことだけど、それによりいろんなことが変わっていく」

レイヤードの着こなし方を提案する森川さん。

自らがサンプル服を着て、リアルな着方をアピール。

アートに匹敵するほと美しいオリジナル図案の布や、斬新なフォルムの服で構成されたターク。生み出す森川さんは、自身をアーティストでなくデザイナーと自称する。
「デザインという仕事で認められたい。認められてタークをお客さんが着てくれて、その成功体験を重ねていきたいです。デザインはアートより、いつも人の横にいられる気がするから好き。でもデザインって言葉自体はさほど好きではありません。表面的な仕事に捉えられることが多いですから」


「僕は仕事で培ってきたものを育てていくことがデザインだと思っています。木に例えると、ブランドの幹を太くするプロセス。幹を育てると根も太くなりますし、土壌も豊かになるでしょう。太い幹があれば、シーズンごとに葉や花の部分を変化させても問題ありません。時代性に合わせた変化とはそういう部分です。でも幹がないと、そのときだけの花で終わってしまう。ブランドを継続させて伝えていくには、やはり幹が必要なのです」

森川さんの言葉にはイッセイミヤケから独立して約10年が過ぎた彼が、手探りでキャリアを積み重ねてきたからこその重みがある。

TAAKK — AUTUMN WINTER 2022 COLLECTION—

最新の22-23年秋冬コレクションのために用意した映像でも、冒頭にメッセージを掲載して、見る人の理解を手助けしている。

学生時代 「着るのに飽きて、つくることに集中」

 

出身の秋田での高校生時代から、友人の服をつくるなどファッションへの関心を深めていた森川さん。入学した文化服装学院で本格的に服づくりに没頭したのは、基礎科からアパレルデザイン科に進学してからだった。服を買って着る楽しみよりも、つくることが喜びだった。
「でもいま振り返ると、その頃つくってた服なんて口に出せるような出来栄えじゃないですよ(笑)。アパデのあと進学した1年コースの文化ファッションビジネススクール(現・文化ファッション大学院大学)の卒業間際につくったのは、『縫わず洗濯機で作る服』。ウールの原毛をニードルパンチで布に移植し、洗濯機に入れると、ニードルパンチの箇所が半分くらいに縮みます。その縮みを計算して布をサーキュラー形のパターンで裁断して、レディスジャケットにしました。できた!と思ったけど、これ以上のデザインが考えつかなくて。まだ若かったな、と思いますけど(笑)」

旧・文化ファッションビジネススクール卒業時につくられた冊子「WHITE」に掲載された、布の縮みでつくった無縫製ジャケット。

仕事場ではいつも愛猫「ことだま」と一緒。「仕事を日常生活と区別しないのが僕のスタイル」

実験的な服づくりをしてイッセイミヤケに入社した彼だが、技術に溺れることは好ましくないと考えている。
「洋服の本質ってそこじゃないと思うんです。着て美しく素敵、という不確定要素があってこその服でしょう。でも僕の場合は学生時代に好きなように頑張ったから入れてくれる会社もあったわけだし、それがなかったらいまの自分もないだろうし。でも普通のお洒落な服が好きな学生が企業デザイナーを目指すなら、自分が好きと思える服をつくるほうがいいと思います」


学生は授業で技術を学ぶことに並行して、アパレルでインターンして実践的なデザイン手法や流通を知ることも有益なようだ。

「昔の時代といまはすべてが様変わりして、デザイン手法が多種多様になりました。僕の場合、企業に入社したらまずイメージボードをつくることをやらされました。いわゆる商品企画です。どんな商品が必要で、どのような生地で実際の服にしていくかまで考えられたうえで、初めてデザイン画を描く。それがアパレル産業でのファッションデザインの仕事です。ゼロの状態から空想だけで短時間でデザイン画を何十枚も描くなんてことはありません。本来は『1ヶ月後にデザイン画を描くから、いまなにを準備すべきか』というのがデザインプロセスです。インターンに行けばそうしたことを実体験として学べるでしょう」

「普通の服が好きなら大企業にインターンに行けばいい。企業デザイナーはリサーチ力が大切で、絵を描くこととは別物の世界。絵が下手とか個性的な発想ができなくても、商品構成のボードから紐付いた服づくりなら得意なケースだってあるのです。自分の可能性が見えてくるから、誰にでも学校の外に出る活動を推奨したいです」

文化服装学院の生徒だからこそ受け入れてくれる企業もきっと多いだろう。社会に出る前の数年間をどう過ごすかが、充実した人生の近道になるかもしれない。

※2022年3月取材。

LINKする卒業生

・丸龍文人<フミト ガンリュウ>、茅野誉之<チノ>、飛世拓哉<エフィレボル>(すべてアパレルデザイン科卒業)
すべてファッションデザイナー

「みな同じクラスだった同級生です。2クラスしかなかったアパデには、意識が高く学生時代から光ってた人たちが集まってましたね。頑張ることが称賛されたクラスで、すごくいい思い出です」

記事制作・撮影
高橋 一史 ファッションメディア製作者/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き・撮影・ファッション周辺レポート・編集などを行う。

一般公開メールアドレス:kazushi.kazushi.info@gmail.com

関連サイト

INTERVIEW

ターク
ファッションデザイナー

森川拓野(もりかわ・たくや)
アパレルデザイン科卒業

1982年、秋田出身。高校卒業後に文化服装学院に入学。イッセイミヤケに勤務して企画デザインを担当。2012年、森川デザイン事務所を設立。13年、TAAKK(ターク)をスタート。19年、第3回 「ファッション プライズ オブ トウキョウ」を受賞。同賞の支援で20年、パリファッションウィークに初参加。22年6月に公式スケジュールにて再びパリの舞台を踏む。

NEXT

Vol.010

コスチュームスタイリスト 平松正美

スタイリスト科(現ファッション流通科スタイリストコース)を経て、ファッション流通専攻科卒業

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アパレルデザイン科卒業

1982年、秋田出身。高校卒業後に文化服装学院に入学。イッセイミヤケに勤務して企画デザインを担当。2012年、森川デザイン事務所を設立。13年、TAAKK(ターク)をスタート。19年、第3回 「ファッション プライズ オブ トウキョウ」を受賞。同賞の支援で20年、パリファッションウィークに初参加。22年6月に公式スケジュールにて再びパリの舞台を踏む。

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スタイリスト科(現ファッション流通科スタイリストコース)を経て、ファッション流通専攻科卒業