RITSUKO KAWAMURA
AYAKA TAKAYAMA

アイア(ストラ)
川村梨津子
高山彩香

 

デザイナーとパタンナーで服づくりを語り合う特別対談

 

文化服装学院の卒業生たちの現在を追う、“文化つながり”のインタビュー集「LINKS(リンクス)」。20回めを迎えた今回は、卒業生同士の対談をお送りする特別編。登場してくれたのは、総合アパレルメーカーに勤務するパタンナー川村梨津子さんと、デザイナー高山彩香さん。同じブランドに所属して、同じフロアで働くふたりのリアルな現場話は必読!

働く女性に大人気の「ストラ」を一緒に

ルミネらの商業施設に入居するブランドを多数抱えるアイア(AiiA)のなかで、社会人女性をターゲットにしたストラ(Stola.)を手掛けるふたり。ともにチーフパタンナーとチーフデザイナーという、服づくりのトップ同士である。文化服装学院での学年も、ひとつ違いの同世代だ。ストラのスタッフだけが通うフロアで働く日々を互いに語った。

写真左が川村さん、右が高山さん。パタンナーの作業部屋でもある広いスペースで一緒にトワルチェック。

Q. チームとしてどのように仕事していますか?

デザイナー高山(以下、T):ストラは年4回展示会があるブランドです。春夏秋冬にわかれてます。それに沿って毎回のコレクションをつくっていく流れ。デザイン担当スタッフ同士でそのたびにイメージやムードを固めてデザインを起こしていきます。パターンづくりは、絵型を出した段階での作業ですね。

パタンナー川村(以下、K):絵型ができあがった状態でこちらに回ってきます。パタンナーが企画のミーティングに参加することはないんです。同じフロアにデザインチームがいるから、デザイナーに確認したいときやり取りがしやすいのがとてもいい仕事環境です。直接会って話ができるモノづくり。

T:パタンナー部屋のすぐ隣にデザイナー部屋がありますからね。

K:壁を隔ててデザイナーとMD(マーチャンダイジング)がいて、奥には営業も。このフロアは全員がストラ。

T:みんな行ったり来たり。

K:隣の部署から声が聞こえ、いま何が行われているかを感じられるのもいいこと。

T:同じ認識を持てますからね。一緒に服を見ながら、会話して共感して仕事を進めるのがストラのやり方です。服づくりにはチームワークがとても大事だと考えています。

K:スタッフ数はパターンチームでいうと、4名でアルバイトさん含めて5名います。

T:デザインチームは同じく4名で、アルバイトさん1名。

袖コンシャスなゆるトップスと、レーシーなタイトスカートのトレンド感溢れる大人スタイル。2023年夏コレクションのルックより。©Stola.。

 

袖取り外しで着回し自在な肌見せとろみシャツで、シック&リラックスのオンタイムを。2023年夏コレクションのルックより。©Stola.

 

Q. ストラはどのようなブランドですか?

T:お仕事をしているOLさんを主なお客さまと想定しています。フェミニンで女性らしい部分を大切に。しっかりと自社でパターンをつくっているのが強みのひとつ。お客さまに特に評判のいいアイテムはパンツです。シルエットはもちろん穿き心地もよくて。パッと見だけでなく着るとよさを実感できるのがストラの強みかな。

K:トワルチェックは穿いた状態で確認します。デザイナーが「もっと膝を細くしたい」と言っても、「これに使う生地だと脚を曲げるときつく感じるから、ここまでは削れないよ」ってやりとりしたり。

T:どこまで攻められるか、みたいな(笑)。川村さんと直接パンツづくりをしてストラを代表して売れ続けているのが「モッツァレラパンツ」。

K:生地が伸び伸びで、さらに弾力のあるパンツです。キャッチーな名前がつけられました。

T:初めて店頭に出したとき、一瞬で売り切れましたからね!ただ最初は生地の安定性がよくなくて、サイズぶれのない商品にするのが課題でした。川村さんに何度もパターンをひいていただき研究していって。

K:安定したサイズ感の商品にできるようになったいまだから正直に言えるけど、当時は「この生地いやだ!」って思ってた(笑)。

T:難しかったですよね。改良を重ねて、ついに安定率が高くオリジナルの色にもできる生地を見つけられました。そこからはどんどんバージョンアップ。

K:ファーストサンプルは洗濯試験で洗ったらすごく縮んでしまって。「これ無理だよ」みたいになったこともありました。試行錯誤して最初に生地を洗ってから縫製してパンツにすることで落ち着きました。

T:いまではストラの柱のひとつになってます。

K:確かに。

T:冬は生地を起毛させたバージョンとか、夏は接触冷感とか、機能面も広げてるアイテムです。

インドの生地で現地製造したインドシリーズのセットアップ。
生地の素朴な風合いとレースでつくった、洗練のエスニック。

Q. こだわりのモノづくりがほかにもありますか?

T:インド製のシリーズ。生地も生産もインドで行っている服です。アイアのなかでも特別感のあるモノづくりです。甘織りの生地で、ゆるさがあって、それがインドのいいところ。

K:パターンはこちらで制作して、インドに送って工場生産してもらってます。インドだと難しい仕様はつくれなかったりするので制限はあります。仕様書ではインド向けの細かい指示を伝わりやすく書きますね。丁寧に絵を描いたりとか。言葉だけじゃ伝わらない部分が多いので。味わいがあっても物性(ぶっせい ※耐久性などの品質のこと)はよくないインドの生地を扱いますから、無茶な服づくりはしません。ゆったりふわっとしたサイズ感で、着たときに服に負荷が掛かりすぎない服にすることを心がけてます。

T:ファスナーは基本つけません。よれてしまう可能性が高くて。

K:そうですね。スカートのウエストをゴム仕様にしたりの工夫も。

パタンナーが働く部屋の一角。デスクに敷かれた緑のシートは、裁断やパターンづくりでよく使われるカッティングマット。
大きな会社でも現場はファッションアトリエそのもの。

 

Q. 同じ服飾専攻科出身のおふたりは学生時代からの知り合い?

K:いえ、知り合ったのはアイアに入社してからです。アイアで最初に所属したブランドで高山さんと一緒で、それからずっと一緒。チーフの立場になったのは7年前だったと思います。

T:わたしは文化を卒業してアイアに入社したとき、実はパタンナーでした。その後にデザインに関わりたくなり希望が通ってデザイナーになったのが約6年前。チーフになったのは約4年前です。

広くクリーンなオフィス。扉の奥はデザインチームの部屋。

Q. 同世代のおふたりにお伺いします。学生時代はどのような服を着てましたか?

T:2000年代の文化は皆がすごく服好きというか、「いろんな服買いたい!」みたいな時代でした。

K:その感覚わかる!学生に共通するものがあった気が。

T:尖ってましたよね。

K:いい服を買おうとする気持ちが高かった。

T:ストラのようにフェミニンな服は仕事をはじめてから興味を持つようになったけど、昔は攻めたデザイナーズブランドが好きで。黒い服とか。

K:そうだ、初めて高山さんに会ったときは真っ黒な服だった(笑)。

T:アンドム(アン・ドゥームルメステール)とかのアントワープ系が好きでしたよ。

K:確かにそんな服が人気の時代でした。あと、ツモリチサトとかも……。

T:そうですね!ツモリ。

K:トーガやサカイが出始めの頃で女性デザイナーのブランドに勢いがあって。

T:シアタープロダクツとかも!

K:確かにそういうのを自分でも着てました。

T:同級生もみんな服好き。

デザイナー高山さんの希望をパタンナー川村さんが聞きつつ、使う生地の特性も踏まえてパターンを調整していく。

Q.アイアに入社したいきさつと、学生時代のエピソードを教えてください。

K:オートクチュール専攻に通ってた3年生のとき、1学年上の先輩がアイアに入社していて、その先輩の就活資料などを見て受けることを決めました。パタンナーとして職につきたかったから。

T:わたしは実はテーラーになりたかったんです。アイロンのクセ取りなどの技術にすごく興味があって。でもアイアに勤めてるかた(現在、ルーニィのチーフパタンナー)が学校での会社説明会に来てくれて、「パタンナーはパターンで工場と会話をするんだよ」といった話を聞いてグサッときました。テーラーのような技術を既製品でやるおもしろさをリアルな生の声で聞けて。ほか何社も会社説明を聞きましたけど、そういう生の声はありませんでした。それが理由でアイアを受けました。このパタンナーさんすごい、と思って。

K:学生時代のことで印象に残っているのは、文化祭のショー用の服の製作。縫製員に選ばれ何人かでドレスをつくりました。先生の推薦があってやることができて。

T:縫う人はクラスの、できる人だけが選ばれるんですよね。そこに入るのは優秀な人だけ。

K:たいへんだからやりたくない人もいるでしょうけど(笑)。刺繍とか好きだったので喜びでしたが。

T:わたしの思い出は、学内にある生地の店に入り浸ってたこと。仲良かった友人がその店のお手伝いをしてたから、いつも行ってました。店に服づくりの相談に乗ってもらったりも。楽しかったですね、生地を見ているのが。いまも店に行くとわたしのこと覚えててくれてます。

K:その店員さん、いまもいるの?

T:います!

デザイナーとパタンナーが同じフロアに同居して、スムーズにやり取りできるのがストラのオフィス環境。

 

取材後記

青山から渋谷へと向かうメイン通り(明治通り)沿いのモダンなビルがアイアのオフィス。ストラのフロアに足を踏み入れると、そこは文化服装学院の卒業生ならホッとするファッションアトリエ。商業施設でよく見かける服も、ベースになるのはローテクな発想&作業なことを実感したひととき。川村さんと高山さんが率いる息の合ったチームが生み出すストラの服の一着一着に、体温が宿った取材だった。

※2023年2月取材


同級生の文化つながり!
LINKする卒業生

・ひがし ちか(服装科卒業)
画業

www.instagram.com/cocilaelle
www.cocilaelle.com

「ユニークな活動をしている同級生がいます。日傘ブランド『コシラエル』を立ち上げて、一点もので傘に手描きの絵を描く、ひがしさん。東京に直営店も構えたブランドながら、残念ながら諸事情ありコシラエルは2022年で休止。でも彼女は絵を描く活動を続け、各地で傘の原画の展覧会なども開催しています」(川村)

記事制作/撮影(ポートレート+取材)
一史  フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。

Instagram:kazushikazu

関連サイト

INTERVIEW

Stola.チーフパタンナー/Stola.チーフデザイナー
川村梨津子(かわむら・りつこ) /高山彩香(たかやま・あやか)
服飾専攻科 オートクチュール専攻 2003年卒業(川村)/服飾専攻科 技術専攻 2004年卒業(高山)

1981年、静岡出身。高校卒業後に文化服装学院に入学。卒業年にアイアに入社。入社時からパタンナーとして活躍中。(川村)
1982年、東京出身。高校卒業後に文化服装学院に入学。卒業年にアイアに入社。パタンナーとして入社し、のちにデザイナー職へ。(高山)

NEXT

Vol.021

Nahyatデザイナー 依田聖彦

アパレル技術科 卒業

INTERVIEW

Stola.チーフパタンナー/Stola.チーフデザイナー
川村梨津子(かわむら・りつこ) /高山彩香(たかやま・あやか)
服飾専攻科 オートクチュール専攻 2003年卒業(川村)/服飾専攻科 技術専攻 2004年卒業(高山)

1981年、静岡出身。高校卒業後に文化服装学院に入学。卒業年にアイアに入社。入社時からパタンナーとして活躍中。(川村)
1982年、東京出身。高校卒業後に文化服装学院に入学。卒業年にアイアに入社。パタンナーとして入社し、のちにデザイナー職へ。(高山)

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