MINORI OKAJIMA

ファッションライター
岡島みのり

大手出版社からフリーライターへ
ファッションを“伝える”仕事

ファッションメディアを軸に文章を書くライターの仕事をしている岡島みのりさん。文化服装学院を卒業してから興味のある道を辿るうちに行き着いた職業だ。ライターは好きなように書き綴るエッセイや文学とは立場が異なる報道ジャンル。岡島さんが職に就くまでの道のりは、ライターになるプロセスの代表的な一例。仕事に就くヒントになる彼女の人生と、やることの多い仕事内容を紹介しよう。

ライターの役割とは?

ファッション雑誌の誌面にはたいてい、タイトルの下などに制作スタッフの名前が入れられる。「クレジット」と称されるその名前の羅列に、モデル、ヘア&メークアップ、スタイスト、フォトグラファーなどと共に並んでいるのがライターの名称。ライターとはライティング(文章を書く)する人のこと。撮影現場などでモデル着用の様子やアイテムをチェックして、レイアウトの字数に合わせた紹介文章を書く。服のブツ撮り写真に添えられた短い文章(キャプション)も書いている。仕事を依頼された出版社のようなクライアントの意向を汲み取りつつ、読者に情報を伝えるのが主な仕事内容。自社コンテンツに力を入れるファッション企業から仕事を依頼されることも多い。

ファッション誌「GINZA」の担当誌面


ただし書く作業そのものに要する時間は意外と短いもの。掲載するアイテムの詳細をブランドのPR担当者に尋ねたり、扱っている店に行くといったリサーチに手間がかかるのが通例だ。ファッションデザイナーにインタビュー取材したり日々情報をインプットする必要もある。その情報を元に誌面づくりの打ち合わせに参加して、スタッフの一員として意見を出す。ライターは書く能力に加えて企画力・編集力も問われる。「自分がやった」と言い切れる作業は文章だけでも、その背景には何層もの仕事のレイヤーが重なっている。

「ライターは裏方の仕事だと思います」、そのように岡島さんは言う。一方で、「雑誌にクレジットが載る喜びもあります」とも。「本屋さんに行ったとき偶然に自分が参加したページを開いているお客さんがいて嬉しくなりました」という出来事もある。人を愉しませる“サービス業”にも限りなく近い職業。裏方の立場に満足できる人こそ、ライターに向いているのかもしれない。

ファッション誌「SPUR」の担当誌面


ライターになるには

ファッション系ライターになる正統派のやり方は、ファッション雑誌やムック本の出版社に入社→編集仕事に従事→独立してフリーランス(または広告・編集プロダクションに勤務)。ところがファッションに関わる出版社の数は少なく、新卒の募集も限定的。しかもほぼ4年生大学生のみが応募対象で、専門学校生には門戸が狭いのが現状だ。とはいえ学歴が問われないライターへの道もある。出版社でアルバイトしたり、編集プロダクション(誌面づくりを請け負う業者)に入社して将来の仕事につなげるケース。岡島さんがライターになったプロセスはこちらに当てはまる。
「漫画好きな妹から募集があることを教えてもらった集英社で、アシスタントを経験したのがライターになったはじまりです。前職がファッションの販売員だったこともありメンズ誌のUOMOに配属されました。取材のオファーなどを行った勤務を通じて自身の編集会社を持つライターの小澤匡行さんと知り合い、小澤さんの会社で働くようになりました」


文章の書き方といった基礎は小澤さんに教えてもらったそうだ。その後フリーランスとして独立。行く先々でコネクションを掴んだことが、仕事が舞い込む現在の岡島さんにつながったのだろう。
「ライターになるなんて、学生時代には考えたこともありませんでした」
とはいえ昔から出版物や文章に興味を持っていたようだ。次章ではそんな岡島さんの人生プロセスを見ていく。

ハイブランドの販売から出版仕事への転職


ファッションへの憧れで名古屋から上京して入学した文化服装学院のコースは、「ファッション流通科リテールプランニングコース」。卒業生の大半が販売仕事に就くコースのなかで、岡島さんが応募したのがLVMHグループに属するハイブランドのセリーヌ。女性デザイナーのフィービー・ファイロの時代で、世界中でもっとも注目されるブランドだった。
「ほぼ4大卒しか採らない会社にダメ元で応募しました。説明会での態度が気に入られたのか、採用していただきました」

スタジオ撮影の現場。撮影をチェックしつつ、納品する原稿書きも同時進行で。


その後の仕事ぶりも有能だった彼女の採用により、LVMHグループの目が文化服装学院に向くようになった。岡島さんが文化の後輩たちへの門戸を開いてくれた。
「配属先は伊勢丹新宿店のセリーヌ。仕事そのものはとても厳しかったです。お客様に失礼がないように長い期間接客業務をせず、数百名いる主な顧客の名前をひとりひとり覚えることからはじまりました。細かいことに気づける資質が望まれたのです。その後は接客もするようになりましたが、文化で学んだ専門性が役立ちました。とくに学校で購入した辞書が便利でした。家にも職場にもつねに常備して眺めるほど大切な本になりました」

学生時代から親交のあるファッションデザイナー後藤愼平さんのブランド、M A S Uの展示会を訪問。

集英社でのアルバイトを決めたのは、セリーヌジャパンを退職してから。仕事先に出版社を選んだ理由は、学生時代に図書館に通い詰めたほど好きだったからのようだ。
「いま思えば出版やメディアに関心が深かったのかもしれません。昔は気づかなかった資質です」

ライターに向く人

フリーランスのライターに向くと岡島さんが思うのはどのような性質の人だろうか。
「誌面づくりはいろんな人が携わります。それぞれの意見を汲み取って独自に伝えることが望まれる仕事です。ある種の“大喜利力”というか『それならばこうしましょう』と提案できる人が向いているかもしれません。さらにこの仕事は時間給ではなく、成果に対して報酬が支払われます。仕事と割り切らず、ひとふんばりできる人が好まれると思います」


お気に入りブランド、セシリー バンセンのワンピースを着て。

個人が好きなように発信するネット情報が影響力を持つ現在でも、大勢の人が関わるメディアには情報の正確さ、奥深さ、信頼性がある。本物志向の人はメディア業務を目指すのもひとつの道だ。組織に所属しないフリーランスでも、クライアントに気に入られれば仕事が舞い込む。真面目な仕事ぶり、仕事の質の高さ、センス、愛らしい人柄、ルックス(!?)など気に入られる要因はさまざま。自身の資質を見極められると将来につながるかもしれない。

※2024年4月取材


LINKする卒業生

・熊澤優さん(ファッション流通科スタイリストコース卒業)
Nyxuデザイナー
https://www.instagram.com/yuu_kumazawa

「流通科の同級生です。デザイナーアシスタントを経て独立。現在はオンラインを中心としたオリジナル&セレクトのブランドNyxuを立ち上げ、運営しています。伊勢丹新宿などでPOP-UP SHOPを実施したこともあり」

・柳澤春馬(ファッション流通科リテールプランニングコース卒業)
内装ディレクション、インテリアデザイナー
https://www.instagram.com/formula_sds/

「こちらも同じく同級生です。現在でも親交があり、信頼する友人の一人でもあります。新宿のセレクトショップjackpotでアシスタントバイヤーとして働いたのち、現在はフリーランスで店舗の内装やインテリアデザインなどを行っています。6月には個展を開催予定です」

記事制作・撮影(ポートレート)
一史  フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。

Instagram:kazushikazu

関連サイト

INTERVIEW

ファッションライター
岡島みのり(おかじま・みのり)
ファッション流通科リテールプランニングコース 2015年卒業

1994年生まれ。愛知出身。文化服装学院卒業後にセリーヌジャパンに入社。退職して集英社UOMO編集部でアシスタントを経験。2018年編集プロダクションMANUSKRIPTにて編集・ライター業をスタート。2022年フリーランスとして独立。クライアントはSPUR、GINZA、BURUTUS、BEAMSなど多数。現在、Meta×文化服装学院の学生向け特別プログラム企画(https://www.bunka-fc.ac.jp/ct-collabo/38273/)も進行中。

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服装科、服飾専攻科オートクチュール専攻卒業

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岡島みのり(おかじま・みのり)
ファッション流通科リテールプランニングコース 2015年卒業

1994年生まれ。愛知出身。文化服装学院卒業後にセリーヌジャパンに入社。退職して集英社UOMO編集部でアシスタントを経験。2018年編集プロダクションMANUSKRIPTにて編集・ライター業をスタート。2022年フリーランスとして独立。クライアントはSPUR、GINZA、BURUTUS、BEAMSなど多数。現在、Meta×文化服装学院の学生向け特別プログラム企画(https://www.bunka-fc.ac.jp/ct-collabo/38273/)も進行中。

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服装科、服飾専攻科オートクチュール専攻卒業