KANA MASUDA

東京衣裳
コスチュームファクトリー
縫製
増田夏奈

文化の卒業生とともに、
テーマパーク衣裳を縫う

子どもの頃からテーマパークが大好きで、衣裳製作者になる夢を抱いた増田夏奈さん。文化服装学院では服装科を経て、服飾専攻科オートクチュール専攻で学んだ。縫う技術を習得し70年以上の歴史ある東京衣裳に入社。テーマパークをはじめ映像、舞台、ライブなどの衣裳を手掛ける制作部署で日々を過ごす。ここでは彼女の幅広い仕事のうち、テーマパークを軸にしたレポートをお届けする。

動き、踊る華やかな服

生地の原反がずらりと並んだストックルーム。蛍光色のオーガンジーなどポップな色が多いのが衣裳用ならでは。

スタッフが自由に動けるゆったりとした空間に工業用ミシンが並ぶ。

東京衣裳に制作を依頼するテーマパークは、誰もが名を知る一流どころばかり(取引先の名は社外秘)。会社の技術とセンスが業界最高峰と認められているのは間違いない。衣裳を間近に見ると、クオリティの高さに驚く。生地は上質で、縫製はデザイナーズウェアに匹敵するほど丁寧。装飾は一般のファッションアイテムの比ではないほど凝ったもの。360度見回しても立体的で美しい仕上がり。大人層も夢中になるハイクラスなテーマパークでは、キャストが着る衣裳も高品位なものが求められる。

割り当てられた自分用ミシンで縫製。「毎日ミシンを触ってます」と増田さん。

入社6年目の増田さんが、テーマパーク衣裳制作の流れを以下のように解説してくれた。
「最初にテーマパーク側からデザイン画を渡され、東京衣裳の社内でパターンをつくって服にします。生地や仕様はテーマパーク側から細かく指示されることもあれば、こちらから提案することも。仮縫い用のシーチング布でサンプルをつくり、量産する衣裳も縫っていきます。ときには外部の業者さんに発注することもありますが、できる限り自分たちで最後までつくりあげます」

増田さんいわく、「学生時代に使ってた職業用ミシンと違い、工業用はスピードが早いです。慣れるにはコツがいるかも」。

増田さん愛用の仕事道具。オルファのカッターは学生時代から使い続けている品。

過去につくられた衣裳をメンテナンスするのも大切な仕事だ。キャストが着てダメージが出た服を修理して、新品のように仕立て直す。増田さんが仕事に感じる喜びはどのようなものだろうか。
「子どもの頃からずっとやりたかったことをやれていることが嬉しいです。東京衣裳がテーマパーク向けにつくる服はカラフルでキラキラしたものが多く、つくっているだけで楽しい。リハーサルの場に行けるときもあり、自分が縫った服をキャストが着た姿を見る瞬間も喜びですね。新しいイベントをいち早く観れちゃうのが仕事の役得です!」

制作に特化した運営スタイル

東京衣裳の本社は代々木上原にあり、縫製部門「コスチュームファクトリー」は蔵前にほど近い元浅草。工業用ミシンがひとり1台割当てられたオフィスは、まるで縫製工場のよう。室長の男性1名と女性8名のチームだ。すべてファッションスクールの出身で、文化服装学院が4名、系列の文化学園大学が2名、他校が2名。文化の卒業生が多く在籍している。
「わたしと同じコースに通っていた人もいます。同じ先生に教わっていたり、いろんなつながりがあります」

着脱しやすく機能的なスナップボタンを取りつける様子。
一緒に作業するのは4月に入社したばかりの大野 桃(おおの・もも)さん。服飾系大学→アパレル勤務→文化服装学院 服飾研究科→服飾専攻科オートクチュール専攻卒業生の学び多き人。「大学時代からテーマパーク衣裳の仕事をやりたくてここに入社しました」

職場は明るくなごやかなムード。皆が個人で仕事しつつも、互いに声を掛け合える空気がある。
「上下セットの衣裳のとき、わたしがジャケットを、他の人がパンツをというように役割分担して縫うこともあります。アイテム単体は同じ人が最後まで担当しますが、全身のルックは共同作業です」

パタンナーで室長でもある遠藤雅樹(えんどう・まさき)さん。文化服装学院の服飾専攻科デザイン専攻~ファッション工科専攻科(現ファッション高度専門士科)の卒業生。モード系アパレルブランドからの転職組だ。

同じ職場での文化服装学院つながりメンバー。取材当日にオフィスで作業していた3人。

ミシンに向かう時間は独りでも、チームワークは欠かせない。服飾専攻科オートクチュール専攻でグループ実習した経験が職場で役立っているようだ。
「6名のグループで1年間に1着の服を完成させる実習をしました。つくるたび先生のチェックを受け、つくり直していく授業です。学校にいる時間をほぼそれだけに費やしたほど手間の掛かった授業でしたが、共同作業や提出期限を守ることなどを学べました。社会人になるとチームワークも納期もさらにシビアです。学生のうちから気をつけておくといいでしょう」

縫製に向くのはこんな人


テーマパークが要求する衣裳のクオリティは年々高まっている。室長の遠藤さんが次のように語った。
「キャストを撮影する人が増え、クローズアップ写真でも見栄えのいい精密な仕立てが望まれるようになりました。写真がネットに流れる時代ならではの服づくりです」
キャストと触れ合う子供たちに残念な思いをさせない配慮も大切なようだ。映画やドラマなら撮影の工夫でアラを隠せても、テーマパークの衣裳づくりはそうもいかない。

体格のいいスポーツマン体型の男性向けトルソー。特殊な舞台の衣裳制作のために導入したもの。


6年間で経験を積んできた増田さんに、どのような人がこの仕事に向くか尋ねた。
「ファクトリー事業部ではテーマパーク関連の仕事が多いですから、まずテーマパークが本当に好きだといいでしょう。細かい作業が苦でないことも大切だと思います。例えばスナップボタンを取り付けるなら数ミリのずれも許されず、ミスしたらやり直し。この作業をずっとやり続けるときもあるんです。辛抱強くないと辛くなるかもしれません。体力もそれなりに必要です。年間では2、3月が繁忙期でもっとも忙しくなります。納期に間に合わせるのがたいへんな時期です」

テーマパークに憧れ続けた学生生活

小学校の家庭科の授業で縫う楽しさを知り、ミシンを買ってもらったことが増田さんとモノづくりとの出会いだった。
「自分の服よりも人形の服や小物を縫うのが楽しくて」
つくったもので遊び、おしゃれとしてのファッションへの興味はその次。文化服装学院への進学を決めたときに選んだコースは服装科。
「実は姉が服装科に通ってたんです。自然な発想で同じ科に決めました。東京では姉とふたり暮らし。文化にいたときもずっとテーマパークへの思いが続きました。周囲がファッションの服づくりをやっていてもわたしが好きな世界は別で」

学内の「遠藤記念館 大ホール」で開催された服飾専攻科オートクチュール専攻 2016年2月卒業ショー。増田さんのグループが制作したエアリーなドレス。

2年間を服装科で学び、より専門性を追求すべく1年間の服飾専攻科オートクチュール専攻に進級。やりたいことをやれると感じた東京衣裳への就職につなげた。一流企業をクライアントに持つ同会社では生地の縫い合わせにも装飾にも、高度な技とセンスが望まれる。増田さんは学生時代に得た技能をプロの現場で開花させ、今日もミシンに向かっている。

※2024年5月取材


LINKする卒業生

・大野遙奈(服装科 卒業)
松竹衣裳 勤務

「服装科のときの同級生です。よくテーマパークに一緒に遊びに行った仲。彼女は松竹衣裳に入社しました。最近は新橋演舞場で公演している舞台で、現場つきの仕事や衣裳の仕込みなどをしているようです」

記事制作・撮影
一史  フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。

Instagram:kazushikazu

関連サイト

INTERVIEW

東京衣裳
コスチュームファクトリー 縫製
増田夏奈(ますだ・かな)
服装科/服飾専攻科オートクチュール専攻 2019年卒業

1997年生まれ。静岡出身。地元の高校を卒業後に文化服装学院に入学。テーマパークの衣裳製作者を目指し、縫製技術を習得するためにオートクチュール専攻科に進級。卒業年に新卒で東京衣裳に就職。

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ユナイテッドアローズ 四谷奈々可

ファッション流通科 モデルコース/ファッション流通専攻科卒業

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服装科/服飾専攻科オートクチュール専攻 2019年卒業

1997年生まれ。静岡出身。地元の高校を卒業後に文化服装学院に入学。テーマパークの衣裳製作者を目指し、縫製技術を習得するためにオートクチュール専攻科に進級。卒業年に新卒で東京衣裳に就職。

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ファッション流通科 モデルコース/ファッション流通専攻科卒業