手編みの再生糸ニットで挑む、
次世代SDGsファッション

ニットだからこそできる服づくりがある。ファッション産業で環境と人に優しいSDGsが問われているなかで、伴 真太郎さんは独自の道を見つけ出した。ニット製品をほどいて糸に戻し、知的・精神障がいを持つ人と一緒に素材をつくり、ニット職人が手編みする新しい製造プロセス。糸一本まで戻せるニットの特性をフル活用した活動だ。伴さんが社会的な服づくりをするようになったのにはどんな理由があるのだろうか?彼のニットブランド「ユニティ(Ukniti)」の未来像とは?仕事現場に密着してクリエーションの源泉を探った。
再生糸とは思えない
お洒落なニット

ユニティの服や小物を見て、すぐに再生糸と気づく人は少ないのではないだろうか。手触りがよく糸そのものに高級感があるからだ。それもそのはず、使われた糸はその多くがイタリア産。高品質な糸の産業で世界トップのイタリアの糸でサンプル製造されたニットがユニティの原料となる。廃棄されるアパレルメーカーのサンプルを活用し、さらに糸一本に戻していく徹底した無駄のなさ。伴さんはどのように廃棄サンプルを調達しているのだろうか?彼の答えは以下の通り。
「イタリアの糸を販売する会社の仕事を手伝っており、その関係でアパレルとつながりができてご協力いただけるようになりました」
サンプル服の保管も廃棄も費用が掛かるため、アパレル側も伴さんの申し出がありがたかったに違いない。自分たちが無駄なものづくりをしている引け目もずっと感じていただろう。ユニティに協賛することで社会貢献できるなら一石二鳥の問題解決だ。

再生糸ならではのゆらぎを活かしたユニティのニットは色彩も美しい。素朴さとモダンなファッションセンスが融合している。
ここに掲載した写真は、定期的に開催されているオーダー&販売のポップアップショップ、及びワークショップの会場風景(2025年11月、東京・渋谷にて)。韓国ガールズグループのルセラフィムのメンバーから人気に火がついた手編みニットのブームの追い風もあり、お客さんにダイレクトに商品を見てもらうイベントには一般の若い手編み好きもやってくる。

イベントでは服や小物類だけでなくオリジナルの毛糸玉も販売。個性的であり地球環境に配慮した糸は、リピーターで買いにくるファンがいる品だ。人が集まるこの場は、伴さんの活動の大切な拠点にもなっている。
「ワークショップは一般の人と知り合えて長く会話できる貴重な機会です。将来的にここにやってきた人たちが、自分たちでなにかを運営してもらえたら嬉しいですね。広がっていくことが世の中を変える力になりますから」
このように話す伴さんの目線は未来に向かっている。

障がい者施設の協力を得て

ニットの生産者にも深い配慮がなされているのがユニティの大きな特徴のひとつ。そのシンボルともいえるのが、障がい者施設と提携した制作活動である。この難しい取り組みを伴さんは時間を掛けて着実に実現させていった。
「友人が福祉施設を紹介してくれて、そこの職員として約2年間勤めました。彼らと一緒に再生ニットをつくることが可能か確かめるために。結果としてひとつの事業所では難しいことがわかり、その施設をいったん辞めたのが2019年です。分業の道を探るため全国で約30の施設を見て回りました。東北の岩手から沖縄に至るまで各地を視察。そのうち『ここならこういう作業ができる』と感じた施設と交渉して、現在は10前後の施設に業務委託しています。サンプルのニットを仕分けする施設、ニットを分解する施設、その原料を使える糸に戻す施設など様々です」
今回、伴さんと一緒に訪れたのは社会福祉法人「いたるセンター」が運営する東京・杉並区の「あけぼの作業所」。ここでは原料の短い糸を長く繋ぎ合わせ、糸玉にする作業を行っている。



最初に原料の糸を一本一本手で結んでいく。ただこの作業はかなり難しいため、原則として施設の職人の方々が行っている。できあがった長い糸を施設メンバーに渡して、彼らが新しいニット製品に利用できる状態のいい糸に再生していく。

伴さんが施設にくるとメンバーたちも気分が高揚するようだ。上写真は長くした糸を器具で巻き取り、スチームアイロンで整えていくプロセスの様子。伴さんが自らアイロンの掛け方を指導した。


アイロンを掛けた糸を手回し器具で糸玉にしていく。カラカラと音を立てて毛玉ができあがっていく。

完成した毛糸玉。様々な糸が混じりつつも同系色で揃った美しいトーンは、伴さんのディレクションによるもの。

個性的なキャラクター揃いの、あけぼの作業所のメンバー。美しいものをつくっていく喜びも感じているに違いない。

各施設でつくられた毛糸玉はポップアップで販売される。手編みニットにこの糸を混ぜると、奥行きのある表情になる。
手編み職人には文化つながりも


伴さん自身も編み手であり、記事冒頭で彼が着ている青のクルーネックセーターは自ら編んだもの。つないだ結び目から飛び出た糸もそのまま活かし、手仕事のニュアンスを表現。着たくなるスタイリッシュな服に仕上げている。
障がい者施設の人たちがつくった糸をニット製品にするのは伴さんを含むプロの編み職人たち。
「編むのは高度な技術を持つ人たちに依頼しています。なかにはニットデザイン科の後輩もいますよ」
ニットデザイン科は1クラスしかないからこそ、かつてのクラス担任や先輩、後輩のつながりが深いそうだ。
「学校を卒業して何年も経ってから仕事を探したとき、担任の先生に相談していい働き口を紹介していただきました。ほかのコースも同じかもしれませんが、ニットデザイン科には助け合い文化があります。いまでは学校に恩返しをしたくて特別講師で授業に参加するようになりました。本当にいい学校だと思います。入学を考えている人はぜひ入ってほしいですよ」

上写真の「ニットの花」は岩手県の施設が制作したもの。複数の福祉施設の連携により完成した品だ。
「岩手県の花巻市にある施設に行ったときのことです。編みものができるメンバーがいて意欲もあるけど、売れる商品開発が課題でした。1階が花屋で2階が施設という環境を活かすべく『ニットの花をつくりましょう』と提案したのがこの製品です。今年の春から本格的にはじまった新しい試みです」
全国の現場を見て回る伴さんならではの創造的なアイディア。「誰がなにができるか」を考え導き出したものづくりの方法論だ。伴さんが設立した会社「みんなのニット共和国」の名称には、彼の活動の根底を流れるSDGsの思想が込められている。
悔しさがバネになった反骨精神

伴さんが現在の仕事のスタイルを確立した背景には、仕事で感じた悔しさ、残念な思いに挑もうとした反骨精神がある。直接的なきっかけは、イタリアのニット関係者とのやり取りだった。
「学校を卒業してから世界各地を放浪したり職も変えるなど紆余曲折を経たなかで、最終的に就いたのがイタリア糸を日本に販売する仕事でした。イタリアで開催される見本市にもよく行きました。2016年頃、イタリア人は環境に配慮したエコな糸に力を注いでいました。大量廃棄するアパレルの生産が社会問題になっていた時期です。イタリア人にこのように尋ねられました。『エコな糸の日本人の評判はどう?』と。でも当時の日本のアパレル関係者は、このサステイナブルな試みにほとんど関心を示しませんでした。だから僕は何も答えられなかった。日本人の意識が世界標準でないことがすごく悔しくて。そこで『自分たちでこの流れを変えていくしかない』と考え、まずは廃棄されるゴミを活用することから活動を始めました。世界の人に認めてもらえる服づくりを目指して」
伴さんは自身の活動を「お上が民衆に向けて説教するようなものにはしたくありません。僕自身も現場の人ですから」と言う。社会活動家のリーダーというより「みんなのニット共和国」の一員であることを望んでいる。共感してくれる人が皆一丸となって盛り上がっていくことが、社会を動かす力強い一歩になっていくのだろう。
※2025年11月取材
LINKする卒業生 ・sheeper.knit ファッション工科専門課程 ニットデザイン科卒業 ニットクリエイター https://www.instagram.com/sheeper.knit 「ユニティのニット制作をお願いしている職人のひとり。文化の後輩でsheeper.knitの名で活躍しています。セーターの編み図を書いたり、ニッターを何人も抱えていたり多彩な人です」 ・Azumi ファッション工科専門課程 アパレルデザイン科メンズデザインコース卒業 hazy tokyo代表/デザイナー https://www.instagram.com/hazy_tokyo_/ 「ユナイテッドアローズやTOKYO BASEなどで取り扱われているインナーウェアのhazy tokyoを運営する、元文化の同級生。実は僕の妻でして、卒業してから知り合った文化つながりの人です」 |
記事制作・撮影
一史 フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。
Instagram:kazushikazu
関連サイト
-
みんなのニット共和国の公式サイト。https://www.knit-republic.com/
-
ユニティの公式インスタグラム。https://www.instagram.com/ukniti/
INTERVIEW
みんなのニット共和国/ユニティ
伴 真太郎
ファッション工科専門課程 ニットデザイン科 2005年卒業
神奈川出身。図案を自由につくれるニットに可能性を感じてニットデザイン科を選択。卒業後に就職しほどなく退社して約8ヶ月間世界各地を放浪。その後の8年間のアパレル会社勤めを経て、会社の消滅を機にイタリアのニット糸を扱う仕事に転職。2023年、SDGsな服づくりを行う「みんなのニット共和国」を設立。
NEXT
次回のVol.51は、新設されたバーチャルファッションコースの第一期卒業生のシト パクホさん。テクノロジー・プラットフォームでメタバースを推進する新会社GeekOutに雇用されたシトさんの奮闘ぶりに迫る。
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みんなのニット共和国/ユニティ
伴 真太郎
ファッション工科専門課程 ニットデザイン科 2005年卒業
神奈川出身。図案を自由につくれるニットに可能性を感じてニットデザイン科を選択。卒業後に就職しほどなく退社して約8ヶ月間世界各地を放浪。その後の8年間のアパレル会社勤めを経て、会社の消滅を機にイタリアのニット糸を扱う仕事に転職。2023年、SDGsな服づくりを行う「みんなのニット共和国」を設立。


