世界のインディーズを買い付け、
渋谷の店に置く気鋭のバイヤー

文化服装学院で学びたくて中国から来日して10年。ファッション以外の仕事にも就き資金を貯め、2025年6月に念願の実店舗をオープンさせたロウ イツブンさん。「ヨーロッパにも店を出したい」と夢が尽きないロウさんのクリエイティブな挑戦に迫った。
思いが詰まったセレクトショップ「RCv」

ロウさんの店「RCv(アールシーヴィ)は渋谷のファイヤー通り沿いにある古い雑居ビルの3階。人が行き交う一等地のエリアながら、店に入るとそこは高円寺や下北沢のようなインディーズムード。気取りなく居心地よく、いい意味でのごちゃごちゃ感がある。並ぶのはクセの強い前衛的なアイテムばかり。メジャーブランドがまったくない(一部の古着を除く)。ブランド志向と真逆の発想で集められた、個人の審美眼に満ちた店だ。

グラフィカルな天井や壁の内装についてロウさんが解説してくれた。
「デザインを描いてくれたのは、イギリス出身のデジタルアーティスト、キム・ロートン。オープンのとき協力してくれました」
この空間は以前はレンタルのダンス用スペースだったそう。オレンジだった壁をロウさんが自分流の店に仕上げていった。


「asia」と書かれたサイケでユーモラスなフーディは、文化服装学院の卒業生である韓国の二人組がデザインする「Woainiasia【我爱你亜細亜】」。「アジアの愛と調和をテーマに掲げ、音楽好き向けのファッションを展開しているブランドです」とロウさん。ごく小規模なブランドでも「面白い」と感じたら取り扱うのがロウさんの買付けスタイルだ。

カムフラ柄にラインストーンをぎっしりと取り付けた豪華なパンツ。アメリカのパーソンズ美術学校 大学院で学んだシャン・ガオのブランド、「PENULTIMATE」のアイテムだ。
「シャン・ガオは2025年のLVMHプライズでセミファイナリストにノミネートされた実力の持ち主。日本だと原宿の『GR8』でも取り扱いがありますね」
高価な品だが、すぐ買付けを決めたほど惚れ込んだ服である。

この上下セットアップにも深い思い入れがある。
「タイのアートウェアである『Auntie Poons』のものです。実はいま店で扱っている26年春夏コレクションは、RCvのためにだけ制作してもらった完全限定コレクション。一着一着がエアブラシで描かれ、素材も縫製にも優れています」
世界中のどこでも入手できないRCvエクスクルーシブだ。

「これすごくないですか!」とロウさんが取り出してくれたサンダル。ドイツの首都ベルリンを拠点にする「Flufflord」のものだ。「大人気で売り切れ寸前です」。
ロウさんはアイテムのことを、よく笑いながら説明してくれる。その様子は実に楽しそうだ。RCvの取扱品はアートピースの一点ものであっても、ポジティブなパワーに満ちている。“真剣にふざけている”クリエーション。手に取り試着するとこちらも笑顔になってしまう。この店はファッションのワクワク感に満ちている。
バイヤーとしての買付け
バイヤーは輸入品を仕入れるとき、取り扱い代理店や営業会社を経由して買い付けることが多い。アパレルではビジネスのルールを守らないブランドがあったり、倒産して支払ったお金を回収できない問題が起きることがある。リスクを回避するためにも取引は複数の会社を経由するのが一般的だ。直接買い付けるときはブランドの展示会に足を運び、営業スタッフと商談する。
一方でロウさんの取引方法はやや異なる。RCvの品揃えの多くは友人や知り合いのブランドである。SNSで気になるブランドを見つけたときに、コメント欄などに書き込みコンタクトをとる。その後メールやビデオ通話のZoomなどのアプリでデザイナーやスタッフと顔を合わせながら商談して、日本に服を送ってもらう。
「服を触ることなくオーダーすることも多いです。でも届いた服を見て『失敗した』と思ったことは一度もありません」
そう語るロウさんは取引前にクリエイターたちと心を通わせることで、問題ない運営ができているのだろう。
BODYSONG.の展示会を訪問



展示会は半年から1年後に店頭に出る服のサンプルがずらりと並ぶ、ブランドビジネスに欠かせない重要イベント。バイヤーにとってはコレクションをトータルで眺められ、ブランドが伝えたいこと、表現する世界観を掴める貴重な場でもある。
気になる日本ブランド「BODYSONG.」の2027年春夏展示会を訪れたロウさんは、スタッフの説明に耳を傾けながら服を一点一点真剣に見て回っていた。

このデニムはプリント部分に秘密がある。カメラのストロボ照明を当ててみると……、

このようにピカッと光る。車のヘッドライトのように直線的な光を反射するリフレクターと呼ばれる素材が塗布されているパンツ。スタッフの説明を聞いたからこそ気づけたユニークな仕掛けである。展示会では自分の目でアイテムを探すだけでなく、作り手の話をしっかりと聞くこともバイヤーのスキルのひとつ。


「ソックスもいいですね!」とロウさんのテンションがアップ。グラフィカルな図案が心に響いたようだ。

販売もされている輸入品の椅子にも興味津々。「ファッション」という言葉には、アート、音楽、家具、インテリアなどのカルチャーが内包されている。
「わたしはアート、音楽が大好きで常に新しいものをチェックしてます。以前は昼間に働きつつ週4でクラブに通ってたことも。いまは体力がなくて無理ですけど(笑)。遊びは大事です。映画も好きで毎晩一本は観ているほど」
カルチャー全般を知っていれば、仕事で関わるクリエイターたちとの会話も弾む。遊びを追求するように自然体でカルチャーを追える人がバイヤーに向くのかもしれない。

日本語を流暢に話すロウさんは英語も得意だ(当人いわく『まだまだです』とのこと)。世界を相手にするバイヤーは、外国語を扱えるスキルを持つほうがいい。ただスタッフが大勢いる店や会社に勤めれば、同行スタッフが言語をサポートしてくれるケースもある。バイヤーになろうとする人は、将来の仕事の仕方を考えて優先して学習するものを決めるのがいいかもしれない。
店を作りたくて文化服装学院に
「6歳で着る服を自分で選んでたほどの服好きです。家族がみな服好きで、日本の裏原宿やコム デ ギャルソンなどに夢中になりました。文化服装学院に入るべく来日したのは自然な発想でした」
ロウさんの人生ヒストリーは幼少期からファッションとともにあった。
半年の日本語学校を経て入学した文化服装学院で選んだコースは、ファッション流通科リテールプランニングコース。
「中国でデザインや立体裁断を経験しました。やってみて『服を作るより売るほうが向いている』と感じて店の運営を学べるコースに決めました」
在学中からアパレルでインターンをして業界とのコネクションを広げたり、古着屋でアルバイトをするなど充実した毎日を過ごす。
「授業で好きだった内容はファッションコーディネート、色彩、ディスプレイなど。文化祭のショー用の服でデザイン画が選ばれたこともいい思い出です」
卒業後はGR8に社員になり、その後に様々なファッションの店でも働いた。独立してから中国にアートを輸出する物流などの業務で資金を貯め、21年に自身のECストアをスタート。SNSで客を集めファン層を広げていった。25年につくった実店舗には世界中からコアなファッション好きがやってくる。

最後にバイヤーになりたい人へのアドバイスをロウさんにお願いした。お答えは以下の通り。
「つねに新しいことをチェックするようにしましょう。新しい文化を知り、前へと歩みを進められるように。それと同時に、昔勢いがあったブランドを調べて学ぶことも大切。バイヤーをやりたいほどファッションが好きなら、歴史の勉強は苦にならないはずです」
「わたしはメゾン マルジェラのようなモードが大好きですが、きれいめな服、例えばジルサンダーなどもよく見ます。モードから普通の服までたくさん見てセンスを磨きましょう」
※2026年4月取材
LINKする卒業生 ・金子茉由 KIMONO ARCH ディレクター https://www.kimonoarch.com/ https://www.instagram.com/kimono_arch/ ・本企画の取材記事 https://sumirekai.bunka-fc.ac.jp/interview/links/008/ 「着物業界大手の『やまと』でモダンな着物ブランド『KIMONO ARCH』(旧キモノ バイ ナデシコ)を率いている人。リテールプランニングコースの同級生です。勉強熱心で豊富なアイディアを持っている頑張り屋さん。学生時代より卒業してからのほうがもっと仲良くなれた大切な友人です」 |
記事制作・撮影
一史 フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。
Instagram:kazushikazu
関連サイト
-
ロウさんが運営するショップ「RCv」の公式オンラインストア。https://rcv.theshop.jp/
-
RCvの公式インスタグラム。https://www.instagram.com/rcv__tokyo/
INTERVIEW
バイヤー/ショップオーナー
ロウ イツブン (労逸文)
ファッション流通科リテールプランニングコース 2018年卒業
中国出身。幼少の頃からの服好き。日本の裏原宿やデザイナーズに憧れて、文化服装学院に入学するために2016年に来日。在学中から原宿「GR8」でアルバイトをするなど、ショップ運営に深い関心を寄せる。卒業して複数の仕事に就きながら21年よりECショップ「RCv」をスタート。25年6月にRCvの実店舗(東京都渋谷区神南1-11-5 ダイネス壱番館渋谷 301)をオープン。現在ファッションの仕事をメインにしながら、タイトルマッチを狙うムエタイ選手としても活躍中。
INTERVIEW
バイヤー/ショップオーナー
ロウ イツブン (労逸文)
ファッション流通科リテールプランニングコース 2018年卒業
中国出身。幼少の頃からの服好き。日本の裏原宿やデザイナーズに憧れて、文化服装学院に入学するために2016年に来日。在学中から原宿「GR8」でアルバイトをするなど、ショップ運営に深い関心を寄せる。卒業して複数の仕事に就きながら21年よりECショップ「RCv」をスタート。25年6月にRCvの実店舗(東京都渋谷区神南1-11-5 ダイネス壱番館渋谷 301)をオープン。現在ファッションの仕事をメインにしながら、タイトルマッチを狙うムエタイ選手としても活躍中。


