MASAKI SATO

佐藤繊維株式会社
代表取締役
佐藤 正樹

人の心を動かすオリジナルのニット製品を探求する。
佐藤繊維、佐藤正樹の哲学

文化服装学院の卒業生たちの現在を追うインタビュー集「LINKS」がスタートします。卒業生たちは、今どのような場所で活躍しているのか? そして、文化服装学院でなにを学び得られたのか? 彼らの話を通して、ファッション業界で働くことの意義を伝えます。その第一弾となるゲストは現在、文化服装学院の同窓会組織『すみれ会』会長を務める佐藤繊維株式会社代表取締役の佐藤正樹さん。ニット・紡績業界の雄と呼ばれる彼に、これまでの歩み、文化服装学院で学んだこと、そしてファッション業界の展望を伺いました。

「自分たちがトレンドを創る」佐藤繊維の確固たる想い

――本日はよろしくお願い致します。早速ですが、まず佐藤さんが代表取締役を務める佐藤繊維株式会社についてお教えいただけますでしょうか?

佐藤繊維の創業は、1932年に遡ります。明治時代以前、日本は綿と麻と絹の和服が中心でした。明治維新とともに羊毛(ウール)を原料とした洋服の需要が高まります。ウールの性質(機能性)が軍服に適していたことや戦争でウールの輸入が出来なくなり、“国策(ウールの国産化)”として私の曽祖父が周辺農家と、この山形県寒河江市で羊を飼いはじめ、その羊毛で紡績産業を興したことが、佐藤繊維の始まりです。

――まさに日本の洋服の歴史を支えてきた企業と言えますね

洋服の「洋」は羊と言う字が入りますよね? これが示す通り、ウールは西洋文化の象徴だったんです。ニット産業の先駆けとして会社がスタートし、約90年が経ちます。その中で、メイドインジャパンの高品質のニットとして、1ミリも妥協したことはありません。

――佐藤さんはどのような時期に代表取締役に就任されたのですか?

私が入社した30年前、その頃ニット製品の国内生産量は約40%でした。山形の紡績業も主力産業として、いわゆるバブル最盛期でした。その後、わずか15年で1%になります。海外の工場で生産するほうが、よりコストを抑えられる、そのことに日本の企業は気づき、軒並み国内生産から撤退しました。私はそんな激動の時代に就任したと言えますね。

――激動の時代、山あり谷ありのタイミングで代表に就任したと言えますね?

いや、谷しかありませんでしたよ(笑)。最高潮の紡績業界が崩壊する只中での就任でしたからね。

――そんな過酷な時代をどのように乗り越えてきたのでしょうか?

24年前くらいに、イタリアの紡績工場を訪問する機会がありました。ものづくりにかける情熱がもの凄く、「自分たちがファッションの元をつくっている」という意識を持って糸を作っていました。その工場で感じた情熱が、私たちのものづくりの原点になっていると思います。

その体験は「ファッションをつくるのはデザイナーだ」と考えていた私には目から鱗でしたね。ファッションの元=糸を作っている、と言う矜持がその工場にはあったんです。

――そこから佐藤さんひいては佐藤繊維のマインドに変革があったと?

流行を追いかける企業から、流行を追わない企業へ。そこから佐藤繊維のものづくりが始まったと言えます。我々のニット製品は、ヨーロッパやアメリカにもないテイストを提案しています。具体的に言うと、女性視点でかわいいと思えるもの、そして日本生産の最高品質のものを打ち出しています。

――近年では、サステナブルな取組みにも力を入れているとお聞きしました。詳しくお教えいただけますか?

近年力を入れているというより、佐藤繊維のシステム自体が、サステナブルな取組みとなっていました。我々は、年間1000種類以上の糸を作っています。この中から使わないものを廃棄すると、膨大な量になりますよね。ですので、製品で使われなかった糸をすべてアーカイブとして残し、それをまた新たな商品に使う。このように自社のブランドでは、糸をまったく廃棄しないシステムを作っているんです。シーズンを超えてお客様に出せる糸を作っているため、このようなサイクルが生み出せると考えています。

佐藤繊維では本社工場に隣接するセレクトショップ「GEA(https://www.gea.yamagata.jp/)」も運営。つくり手の目線でセレクトされた世界中の最新ファッションが揃う 

文化服装学院時代を振り返って

――話はがらっと変わりますが、佐藤さんは文化服装学院時代どのようなことを学んでいたのでしょうか?

高校を卒業してマーチャンダイジング科(以下MD科)に入学しました。ここでは、マーケティングやトレンド予測、商品企画のノウハウなどを学びました。思い返せば、私が一番意識している「次のファッションビジネスを予測する」という考えの礎を、文化は教えてくれました。

――ファッションビジネスの基本が、文化服装学院の学びにはあったということですね

はい、それともうひとつあるんです。MD科では服作りの基礎も学んでいたのですが、私は当時シーチングでトワルを組むことがすごく好きだったんです。当時の担任は、トワルでの服作りを重要視していて、熱心に学びましたね。それが、今の佐藤繊維のクリエーション、ニットのものづくりに活かされています。

ニットのトワルは伸び縮みがあり、布帛のトワルとは少し違うのですが、平面で考えない、創造力を養う、といった点で、当時学んだことが非常に役立っています。社内でもニットのトワルの講習会などを開き、その重要性を話しているんですよ。

――すごく熱心な学生だったんですね?

いや、そうでもないですよ(笑)。バイクが好きだったり、文化では異例のラグビー部を立ち上げたり……。風変わりな学生で教師を困らせていたことも事実です(笑)。でも破茶滅茶な学生生活の中、学んだことと同じくらい大切なものも得られました。それが様々な価値観を持つ仲間ですね。

文化は昔からファッションの話ができるだけじゃなく、多様性に富んだ人たちが集まっているんですよ。今現在でも繋がっている盟友たちとは、文化で出会いました。

ファッションを愛し、ファッションを突き詰めた人が輝ける時代へ

――コロナ禍を受けファッション業界のみならず、さまざまな業界で苦境が続いています。この状況を打破するため、どのような考えや行動が必要だとお考えですか?

まず今のファッション業界は、非常に複雑化していることを念頭に入れていただけますでしょうか。アパレルの業種の主役は、製造から小売へ、そしてデザイン、バイイング、マーケティング、インターネットビジネスなど、時代とともに移り変わってきたわけです。

さらにこのコロナ禍の情勢も加わり、多くのアパレル企業が淘汰されています。それでは、コロナウイルスが終息した将来、ファッション業界においてどのようなビジネスが主役になると思いますか?

M.&KYOKO(https://www.mkyoko.com/)」など自社ブランドも多く展開している

――想像がつきませんね……。佐藤社長のお考えをお聞かせいただけますか?

私は、スペシャリスト=オタクこそ、これからのファッション業界に光明を与える業態・職種だと考えています。スペシャリストは業種や職種ではないとご指摘があるかと思いますが……。大切なことは、自身が携わる職種をどこまで探求できるか、です。

服飾の歴史、洋服の作り(パターンや縫製)、ビジネストレンド、世情、どれかひとつでも熟知していることが、そのブランドもしくは人物にとって大きな武器になります。そして、確かな技術や知識に基づいた製品を作り続けることが、この状況下においてユーザーと真摯に向き合える手段のひとつとなり得ます。

――これからファッション業界を目指す若者たちにもそういった信念が必要だということですか?

私はそう思います。若者たちは、中途半端な考えやものづくりをするよりもスペシャリストを目指すべきだと思います。洋服をとことん知ると、作るものや選ぶものが「いい洋服」になってくるんですよ。ファッションに限らず、情熱を持って夢中になれることを見つけた人が幸せで、その想いを突き詰めたスペシャリストが増えることを切に願っています。

――佐藤繊維では、文化服装学院出身の方も多く働いているとお聞きしました。彼らの良さはどのような点にあると感じていますでしょうか?

ニットデザイン科を卒業して、弊社を目指す人が多いですね。彼らの共通点として、まず服作りの基礎を身につけているということ。そして、ニットオタクである、ということが挙げられます。先にお話した情熱も持ち合わせていて、とても志高く仕事に向き合ってくれています。

――最後にこれからファッション業界を志す若者にメッセージをいただけますでしょうか?

0(ゼロ)からニットを作り出す、デザインするのは世界を見回しても弊社のみだと自負しています。マーケットを追いかけるのではなく、自分たちが好きなものを作る、それが何より楽しいんです。これからファッション業界を目指す、もしくは入って間もないという人はぜひ、様々な知識を身につけ、楽しむことを覚えてください。自然と仕事が充実し、自分の将来のビジョンが明確になるはずです。

すみれ会オンライン講演会2021

※この取材内容は2021年11月時点のものです。

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INTERVIEW

佐藤繊維株式会社
代表取締役
佐藤 正樹(さとう・まさき)

1966年、山形県寒河江市生まれ。日大山形高校から文化服装学院マーチャンダイジング科(現:インダストリアルマーチャンダイジング科)に進み、卒業後アパレル会社に就職。92年、曽祖父の代から続く紡績・ニットメーカーの佐藤繊維株式会社へ入社。2005年、4代目として代表取締役に就任。独自のモヘア糸開発、ターゲットに応じた自社ブランドの立ち上げなど、数々の功績をあげ、国内外で高い評価を得る。県産業賞、経済産業省「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞、アントレブレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン東北地区グランプリなどを受賞。現在、文化服装学院の卒業生による同窓会組織「すみれ会」会長も務める。

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田中和安

文化服装学院マーチャンダイジング科(現:インダストリアルマーチャンダイジング科)卒業

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1966年、山形県寒河江市生まれ。日大山形高校から文化服装学院マーチャンダイジング科(現:インダストリアルマーチャンダイジング科)に進み、卒業後アパレル会社に就職。92年、曽祖父の代から続く紡績・ニットメーカーの佐藤繊維株式会社へ入社。2005年、4代目として代表取締役に就任。独自のモヘア糸開発、ターゲットに応じた自社ブランドの立ち上げなど、数々の功績をあげ、国内外で高い評価を得る。県産業賞、経済産業省「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞、アントレブレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン東北地区グランプリなどを受賞。現在、文化服装学院の卒業生による同窓会組織「すみれ会」会長も務める。

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