KAZUYASU TANAKA

株式会社ユナイテッドアローズ
執行役員営業統括本部長
田中 和安

「ファッションとは自分らしく生きるための重要なツール」を命題に。
ユナイテッドアローズ 田中和安の想い

文化服装学院の卒業生たちの現在を追うインタビュー集「LINKS」。卒業生たちは、今どのような場所で活躍しているのか? そして、文化服装学院でなにを学び得られたのか? 彼らの話を通して、ファッション業界で働くことの意義を伝えます。第二弾となるゲストは、株式会社ユナイテッドアローズ 執行役員営業統括本部長の田中和安さん。誰もが知るセレクトショップの先駆けの中でマーケティングを中心に経営戦略を練る彼に、これまでの歩み、文化服装学院で学んだこと、そしてファッション業界の展望を伺いました。

お店は「服を売る」だけでなく、「人と人を繋ぐ」場所

――本日はよろしくお願い致します。早速ですが、まずユナイテッドアローズでの田中さんの業務、役割についてお教えいただけますでしょうか?

ユナイテッドアローズの営業統括本部長として、主力事業の商品・販売力強化へのサポートや各事業の販売促進、企業イメージを向上させるためのPRといったところまで包括的に関与しています。また執行役員として社のビジョンや中期戦略の策定にも関わっています。

UNITED ARROWS 六本木ヒルズ店

――多岐に渡る営業部門の機能、業務を田中さんが牽引している、ということですよね?

直接的には、EC、PR・販促、販売支援、店舗開発、R&D、事業管理となりますが、商品や店舗運営との連携なしには進みませんので、結果的には広く関与しています。

BLAMINK 青山店
21FWに立ち上げた、UNITED ARROWS GOLF(ユナイテッドアローズ ゴルフ)

――特に昨今、ユナイテッドアローズの中で力を入れている取組みはどのようなことなのでしょうか?

時代対応としてDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用したOMO(Online Merges with Offline)戦略に力を入れていますが、私たちの商売の根幹である、「ヒト・モノ・ウツワ」(サービス・クリエイティブ・世界観)を磨き上げることは、昔も今も、またこれからも注力していきます。

――OMOのお取組みには具体的にどのような施策があるのですか?

自社直営オンラインストア「UNITED ARROWS LTD. ONLINE STORE」のサービスの充実がイメージしやすいかと思います。コロナ禍、特にその重要性とニーズは高まっており、いかに実店舗での体験に近いものをオンライン上でも提供できるのか、そのための新サービスを日々検討しています。スタッフによるライブ配信やEC上でのスタイリング提案などが、その一例です。

“買える UA LIVE”は、ライブ動画を見ながらオンラインでお買い物をしていただける新しいサービス

――なるほど。宣伝、販売促進という点でも、ファッション業界の価値観は大きく変化しているのではないでしょうか?

そうですね、ここ4〜5年で随分変わってきました。我々は小売業ということで、お店の出店自体に大きな販促効果もあると考えていました。それを補完する形で、紙媒体での広告出稿、タイアップを行うことが、業界の通例でした。これが数年前の小売業のメインのPR方法だったのですが、現在はSNSを含めたデジタルマーケティングが主流になっています。

「ユナイテッドアローズ」ウィメンズの新レーベルとして、YouTubeチャンネル「かんだま劇場」で約32万人の登録者数を持つ人気YouTuber・インフルエンサー”かんだま”と協業した「MARW UNITED ARROWS」(マルゥ ユナイテッドアローズ)」

――それほどSNS活用の販促は大きな効果があるということですね。

ただ、お客様からは「実物の洋服に触れたい」「カタログの紙の質感が懐かしい」などの声も挙がっています。おそらく、ネットでは伝えきれない質感が、アナログな手法にはあり、そこを求めるお客様が一定数おられると実感しています。双方の良さを見極め、ブランド単位でバランスをとる必要がある、と感じています。

――私もユナイテッドアローズで接客を受けることがあるのですが、スタッフの皆さんの知識量や洋服への愛情に驚かされることがあります。これはECだけでは感じることができない感覚ではないでしょうか?

ありがとうございます。私たちは、毎週お客様からの感謝のメッセージとお叱りのお言葉を時間をかけて読み合わせしています。どちらのお声も商品自体のことより、ほとんどが接客に対してなんですよね。そこからも分かる通り、お店は単に洋服を売る、というだけではなく、人と人との繋がりを生み出す場になっていると思うのです。ですので、私たちの存在意義は、いかにお客様に自分らしく装っていただけるか、そのためのパーソナルスタイリストとしてお役に立てるか、そしてファッションの楽しさを伝えることができるか、に尽きると考えています。

文化服装学院時代を振り返って

――話はがらっと変わりますが、田中さんは文化服装学院にどのような経緯で進学されたのでしょうか?

一言で表すと「反動」ですかね(笑)。私は広島での高校時代、ラグビー部に所属する体育会系でした。それと同時に、映画が大好きだったんです。先日惜しくも他界されたジャン=ポール・ベルモンド主演の『勝手にしやがれ』や『ボルサリーノ』のリバイバルを観たのもその頃ですし、サンローランを纏うカトリーヌ・ドヌーブの『昼顔』、フェリーニの『甘い生活』や『8 1/2』、ウッディ・アレンとダイアン・キートンの『アニーホール』のNYスタイルも最高に格好良く、部活引退後は受験勉強より60-70年代を中心にアメリカ・ヨーロッパ問わず映画に夢中になりました。

そんな中で、劇中に登場するファッションに興味が湧くようになったこととDCブームが重なり、地元のブティックに通いつめていたんです。そのブティックのオーナーから「田中くん、そんなにファッションが好きなら、東京に文化服装学院という学校があるよ」と紹介されたことがきっかけですね。

――映画好きが高じてファッションを志すようになったんですね。進学した文化での所属学科をお教えいただけますか?

当時は洋服を作る、というより洋服を広める、ファッション広告を作る、という方向に興味があり、流通専門課程のアドバタイジング科(現ファッションプロモーションコース)に進学しました。ただ……、入学して早々、「服作り」への興味と、「マーチャンダイザー」という職種を知り、それで、半年後に休学をし、基礎科に再入学、そのままマーチャンダイジング科(MD科)に進学しました。因みに休学中は洋服のローン返済先の丸井さんと、新宿の映画館でバイトしていました。

――そうなんですね。MD科で佐藤繊維の佐藤社長と出会ったんですね。田中さんはどのような学生だったんですか?

憧れの東京暮らしをしながら、好きな洋服の勉強をするのはとにかく「楽しい!」の一言でしたが、反面、文化の課題の多さと期限の厳しさは本当にしんどかったです。ただ体力は持て余していたので、平日はツバキハウスや二丁目(新宿)のバー通い、週末は佐藤さんたちと立ち上げたラグビー同好会活動、月末お金が無くなれば、フィットネス代わりに羽田空港での夜間物流バイト、というように、学生生活を満喫していました。ただ自分で言うのもなんですが、授業に関しては、比較的真面目だったと思います。

――MD科でどのようなことを学んでいたのでしょう。また現在でも役立っていることをお教えください。

役に立っていることは、「洋服の基礎」「マーケティング」「コミュニケーションスキル」の3つのように思います。自分で生地選びとデザインをして、パターン、裁断、縫製と仕上げていく過程は、後にMDになってからもチームで仕事を進める上で土台になっています。また、市場やトレンドをリサーチし、それをポートフォリオにまとめ、クラスでプレゼンテーションする、という今でも変わらず行っているフローを学んだのですが、そこで、考えをまとめ、人に伝える重要性=コミュニケーション力が上達したと思います。当時、プレゼンは大の苦手だったんですけど……、文化で学ぶ中で少しずつ克服できたのではないでしょうか。

ファッション業界の進歩の可能性はまだまだ残っている

――コロナ禍を受け、ファッションのみならず様々な業界で苦境が続いています。この状況を打破するため、これからを担う若者にはどのような考えやモチベーションが必要だと思われますか?

先ず、私たちが携わるファッションは「嗜好品」だと割り切って考える必要があります。寒さをしのぐ、暑さの中で快適に過ごすなど最低限の役割はあるとしても、言い切ってしまえば機能性以外の要素は「なくても」生きていけるもの。成熟した先進国の日本では衣食住の最低限のインフラは基本的には整っています。コロナ禍、「命の次に大切なことは人それぞれ」ということがよく分かりました。嗜好品だからこそ、音楽やアートと同じように、その存在で自分らしく過ごす事ができ、心が豊かになになることを少なからず確信しています。

昔から「ファッションは時代を映す鏡」と言われていますが、これからの時代の主役は皆さん若い人たちです。最初は周りからの理解は少ないかもしれませんが、自分の好きな道を極めて欲しい、信念を持って楽しくファッションを突き詰めて欲しいですね。こんな状況下だからこそ、共感してくれる人はいるはずです。

――佐藤繊維の佐藤社長も、道を極める人=オタクこそ、これからの業界を担う、とおっしゃっていました。

まったく同じ考えですね(笑)。元プロ野球選手のイチローさんが「誰でもできることを、誰にもできないほど努力する」と言っていました。興味のないことだと努力できませんよね? でも文化服装学院で学んでいる人たちは、少なからずファッションが好き、ファッションに対して真摯に向き合い、そしてどこまでも努力できる人が集まっているはずです。

――そういった人たちが、ファッション業界をポジティブな方向に引き上げる、ということですね?

そうです、若い人たちは自信を持ってください。それはデザイン、パターン、マーケティング、プロモーションどんなジャンルでも構いません。「必ず自分の時代が来る」と根拠がなくても信じることで、実現する努力ができるはずです。共に働く仲間やチームメンバーは、「勁(つよ)い=環境や条件に屈しない力がある」人に魅かれます。そういった勁い人になってください。

――ユナイテッドアローズでも、文化服装学院出身の方も多く働いているとお聞きしました。文化服装学院出身の彼らの良さはどのような点にあると感じていますでしょうか?

共通点を表現するのは難しいですが、私が感じる彼らの良さは、ファッションで生きていくと決めている姿勢でしょうか。そのためかなり早い時点でプロ意識が芽生える人が多くいると感じますし、知らない洋服の知識への探究心も手伝っていますよね。

――最後にこれからファッション業界を志す若者にメッセージをいただけますでしょうか?

ファッション業界は夢のある世界ですが、さまざまな意味で遅れを取っていると言われています。DX(デジタルトランスフォーメーション)であったり、SDGsであったり、デジタルと環境双方の取り組みで整っていない部分が多くあります。ただこれは裏を返せば、やれること=伸びしろがまだまだあるわけです。ファッション業界に進歩の可能性があるうちは、「みなさんの目指す道は間違いではない」と言い切れると私は思っています。

すみれ会オンライン講演会2021

※この取材内容は2021年12月時点のものです。

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INTERVIEW

株式会社ユナイテッドアローズ
執行役員営業統括本部長
田中 和安(たなか かずやす)

1967年、広島県生まれ。文化服装学院マーチャンダイジング科(現:インダストリアルマーチャンダイジング科)出身、卒業後、アパレル大手のワールドに入社、営業担当の後、MD、ブランド長を担当。その後オリゾンティ、福助にて、事業マネジメントや商品本部長を手掛けたのち、2008年にユナイテッドアローズへ入社。UAのウィメンズ商品部長としてプライベートブランド強化、新規事業やブランドの立ち上げなど歴任し、現在に至る

Vol.003 NEXT
金久保 雅人

株式会社 B
代表取締役
株式会社パパス
papas+ planning
文化服装学院非常勤講師

金久保 雅人

文化服装学院
服飾専攻科デザイン専攻
卒業