ANNA CHOI

ヘンネ
ファッションデザイナー
アンナ・チョイ

2シーズンめのコレクションで勢いを増す、
3カ国で学んだ韓国籍デザイナー

 

文化服装学院の卒業生たちの現在を追う、“文化つながり”のインタビュー集「LINKS(リンクス)」。今回のクローズアップパーソンは、「海外の学校に行き日本の文化服装学院の素晴らしさに気づきました」と語るアンナ・チョイさん。ダイナミックなシルエットながら軽量で何通りにも着られ、女性の日常生活にモードの息吹を運ぶヘンネを立ち上げたアンナさんの軌跡を追った。

仕事 2021年にプロデビュー

ヘンネ22年春夏ルック。モデルはバレエダンサー兼ファッションモデルの飯島望未さん。

ヘンネは2021年にアンナさんが立ち上げたブランド。セレクトショップのリステアがファーストシーズンの秋冬コレクションをいち早く買い付け、ポップアップストアまで開催。続くセカンドシーズンの22年春夏コレクションでは、国内有数のモードの発信基地である伊勢丹新宿店もポップアップストアを行ってヘンネの注目度に期待を寄せている。

デビューするなりエッジーなファッション関係者を夢中にさせたヘンネには、学生時代から人の何倍も真剣に服と向き合ってきたアンナさんが行き着いた、いまあるべきモードの姿がある。彼女がブランドのスタイルを語った。
「コンセプトは『強きロマンチスト』。色は黒、赤、ベージュに絞っています。黒は強さ、赤は愛、そしてベージュはすべてを包み込む存在。長く続けてきた一点モノのディテールや発想を、プレタポルテに落とし込んだデザインです。大事にしているのは、どんな女性が着ても美しく見えること。シルエットにボリュームを持たせ顔を小さく見せたり」

 

このときのスタジオ撮影の様子が、飯島望未さんを特集したTBS系テレビ番組『なぜ、君は踊るのか。―バレエダンサー 飯島望未』で取り上げられ、アンナさんも出演。

オーガンジー素材でフリルを多様した複雑なディテールのドレスでも、家庭用洗濯機で洗えるイージーケアなのもヘンネの大きな特徴だ。シワになりにくい素材を好んで使い、気を遣わず気軽に着られる服を目指している。
「人の自信につながる服をつくりたいです。年代も体型も問わず、手入れも気にせず着やすいものを」

 

アンナさんが手に取る黒ドレスはリボンを付け外して袖をセパレートでき、袖先の幅も変えられて何通りにも着られる。「人の好みは変わるものですから、一着の服をアレンジして長く着続けられるようにしました」

白い本革のセットアップもイージーケアアイテム。「汚れを落とせれば白レザーでも着やすくなるため、水洗いできるウォッシャブル素材を採用」

ベテランデザイナーが肩の力を抜いてつくった服が、結果として多くの人に愛されることがある。アンナさんも素材をシンプルにしてフォルムで力強さを出す作風に至るまでに多くの経験を積んできた。当初の計画では海外ブランドに勤めてキャリアを身につけてから自身のブランドを立ち上げる予定だった。それが大幅に前倒ししたのは、留学を終えたイギリスから日本に戻ってきて新型コロナにより新たな海外渡航ができなくなったため。社会で活躍したいとの強い思いもあり、資本提供先を見つけてブランド立ち上げを決意した。

学生時代① ニューヨーク、東京、ノッティンガムに留学

作風が定まってきたイギリス留学時代に、ロンドンファッション・ウィークでショー発表した卒業制作作品。
この卒業制作の時点で、ヘンネと結びつくスタイルが確立されてきた。

アメリカの語学学校、日本の文化服装学院、イギリスのノッティンガム・トレント大学と3カ国に渡る修学経験を持つアンナさんの作風が絞られてきたのは、イギリスの短期留学時代。日本で夢中だった服づくりは、パターンを引き裁断してミシンを踏み、布を織り染色までひとりで行うアート作品。その努力の甲斐もありコンテストに通過し、留学資格を得た。しかしそのやり方にノッティンガム美術大学の先生が異を唱えた。「職業としてのファッションデザイナーは、仕事の現場でなにもかも自分でやることはない」と。
「布づくりや仕立てを専門家に任せるやり方も習得すべき」とのアドバイスを受け、アンナさんは既存の素材を使う服づくりに着手。日本で培った一点モノのオートクチュール発想と、工場生産できるレディメイドとをミックスさせた独自の服へと結びつけていった。

学生時代② 日本で入賞したコンテストの特典でイギリスに

公益財団法人神戸ファッション協会が主催する「神戸ファッションコンテスト」で作品発表した3体のデザイン画。
「第44回神戸ファッションコンテスト2017」でショー発表。受賞した5名のひとりに選ばれイギリス留学の特典を手にした。

神戸で生まれ育ったアンナさんが20歳のとき最初に留学したのがニューヨーク。ファッションを創造する道に進む夢を両親に納得してもらうための思い切った行動だった。ファッションの仕事をなにも知らないままFITやパーソンズ美術大学らの授業に顔を出した。そこで気づいたのがファッションデザイナーは服を縫う仕事ではないということ。その頃の彼女は自分で縫わないと「服をつくった」と思えなかった。そこで別の学び舎を探しはじめた。
「縫う技術を学びたくて世界中の学校をリサーチしました。その結果世界一と知ったのが日本の文化服装学院。入学を決め、ニューヨークから東京に移り住むことに」

 

白い布に手作業でフロッキー加工を施した、コンテスト作品用テキスタイル。
自作したアナログな手織り機械で作品用の布を制作。学生時代からオリジナリティを徹底して追求していた。

進学したアパレルデザイン科での3年間は、「全授業を聞き逃さず、全集中!」とアンナさんが言うほど勉強に没頭した日々。教室内の約1/3のクラスメートは海外のアートスクールなどを卒業してから日本にやってきた留学生たち。22歳で入学した彼女も居心地のいい環境だった。

最初にコンテストに入選したのは、2年生になり応募した「YKKファスニングアワード」。残念ながらファイナルには残らなかった。
「当然ですよね、ひとりでつくりましたが納得のいくものが完成しなかったですから。自分のできなさが悔しくて、『もうコンテストには出さない!』とひたすら学ぶことを決意」
転機が訪れたのは3年生になり地元神戸で開催される「神戸ファッションコンテスト」に応募したこと。自身に課したコンテスト応募禁止のルールを解いた。
「東京に来られない両親や、クリエイティブな活動を支えてくれた祖母に作品を見せたくて。神戸ならそれができると思いました」
応募したデザイン画が通過して発表作品を3体つくることになり、それからが壮絶な毎日。朝9時から夕方5時までは学校の授業。帰宅して課題をこなし、夜中12時から朝5時までコンテスト作品を制作し、使う布を自分で織った。
「テキスタイル科の先生にご協力いただき、布を織る方法やプリント技法を教えていただきました。デジタルプリント室まで使わせていただいたんですよ。白布を買ってきて泊やフロッキーのプリントをするところからはじめ、それだけでは満足せず自分で織るまでになりました。あの頃はもうすごかったですね。神戸に向かう新幹線のなかでもまだ縫ってましたし(笑)」

この時期のアンナさんは常に何かのコンテストに応募してはつくることを繰り返して経験を積んでいた。それができたのは文化服装学院の先生の支えがあったからのようだ。
「毎日夜遅くまで、さらに土日でも先生方が全力でサポートしてくださいました。いまでも本当に感謝しています」


ヘンネのドレスを着て。「同じ服を自分でずっと着続け、品質を確かめることもしています」。

 

「学生時代は何をつくっても満足できなかった」と言うアンナさん。より高いレベルを目指してきた彼女がプロになり立ち上げたヘンネの完成度が高いことは、誰でも想像に難くないだろう。リステアや伊勢丹新宿店らの一流ショップに認められるデザインとクオリティも、服と真剣に向き合ってきた日々があったからこそ。

ブランド名のヘンネは、日本名のアンナ(杏奈)を韓国読みしたパスポートネーム。デザイナー名のアンナ・チョイのチョイが家族名だ。
「私の精神やデザインは、韓国の友人からは韓国っぽくないと言われ、日本の友人からは日本っぽくないと言われます」と笑う彼女。そのグローバルな立ち位置が、今後の世界戦略に大いに役立つに違いない。

 

※2022年2月取材。

LINKする卒業生

・江口圭介(アパレルデザイン科卒業)
株式会社ゴールドウイン ザ・ノース・フェイス 企画デザイナー
https://www.goldwin.co.jp/tnf/

「さまざまなコンテストをともに戦い抜いた仲のいいクラスメート。ふたりで地方の工場見学に行ったことも」

記事制作・撮影(ポートレート)
高橋 一史 ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。モノ書き・編集・ファッション周辺レポート・撮影などを行う。

一般公開メールアドレス:kazushi.kazushi.info@gmail.com

関連サイト

INTERVIEW

ヘンネ
ファッションデザイナー
アンナ・チョイ (日本名:高山杏奈)
アパレルデザイン科卒業

1992年神戸生まれ。国籍は韓国。アメリカ留学を経て文化服服装学院に入学し「神戸ファッションコンテスト」特選を受賞。特典としてイギリスのノッティンガム・トレント大学へ留学。2021年秋冬シーズンより自身のブランドのHAENGNAE(ヘンネ)をスタート。

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ファッション流通科リテールプランニングコース卒業

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