目線の先に未来が広がる、
話題の古着店で働くホープ
2022年の3月に文化服装学院を卒業したカイトさん。昨年の4月からファッションメディアも注目する古着店「フロクシノーシナイヒリピリフィケーション」で働いている。明日の彼はどんな人になっているのだろうか。服販売のスペシャリスト?古着のバイヤー?本格派のDJ?インフルエンサー?「店で働きながら海外にも行ったり目線を広げたい」と語るカイトさんのデイリーな生活と、人生に大きな影響を与えた文化での学生時代を見ていこう。
東京・下北沢の外れにある古着店の日常
「この住宅街に服の店が!?」と不安になるほど繁華街から遠く離れたエリアにある小さな店、「フロクシノーシナイヒリピリフィケーション」(通称、フロクシ)。1990〜2000年代のデザイナーズを中心に厳選した古着だけを置く超個性派ショップとカイトさんが出会ったのは学生時代だった。
「フロクシを知ったのは文化の友人からの情報です。僕はなんでも友人たちが好きなことや薦めてくれたことを大切にしています。フロクシにはまず客として行きはじめました。学校の授業でブランドづくりから販売までを企画する課題があり、そのときに実際の店のリサーチにも協力してもらったほど好きだった店です」
卒業を間近に迎えた2年生の終わりごろに、インスタグラムでスタッフ募集を知り応募。インスタのメッセージにDJ活動や、学内ショーでモデルをやった経験などの自己アピールを書き込みオーナーに送った。
「タイミングがよく働かせていただけることになりました。いまは基本的に週4日、営業時間の13時から21時をベースに販売をしています」
刺激的な毎日だとカイトさんは目を輝かせる。
「買付けを行うオーナーが選んだ品を店に並べるのですが、包まれた服を開けて取り出しハンガーに掛けるとき、『おっ、すごい!』と感動します。それが楽しくて、アイロンを掛けることも倉庫から運ぶこともぜんぜん苦じゃないですね。つらいと思うことがありません。仕事でハプニングがあっても対応できるのは、好きな店、好きなことを仕事にしているからなのでしょう」
フロクシの品揃えは有力ブランドのアーカイブであり、テーマにする未来的なデザインの宝庫でもある。この世界観が好きな若者に加えて、モードに詳しいベテランの大人もやってくる。
「お客さまからもすごく刺激を受けます。いろんなことを教えていただけますから。僕自身が日々勉強で、取り扱うブランドの知識は少しずつ増えてきました。興味があることがお客さまと共通しているから、会話してても楽しいんですよ。自分が本当にいいと思うアイテムをお薦めして購入していただいたときの喜びも大きいです。売れたこと以上に、好きなことを共有できたことが」
文化生時代の活動や友人とのやり取りのなかで、自分のなかで大きく変化してきた考えかたがあるそうだ。
「周りを楽しませることの喜びに気づきました。人に対する気持ちというか、自分を客観視できるようになったのでしょう。人と一緒につくりあげる学内のショーのモデルや、場が盛り上がるDJ活動などで得た経験だと思います」
ファッション、アート、音楽といったカルチャーを共有する仲間との出会いが人生の道を示してくれたようだ。社会に出た現在での人との出会いも、いい影響になり見る世界が広がっていくのだろう。
刺激的な学生時代を経て
クールな佇まいで笑顔が爽やか、服の見映えに気を遣うモデルとしての役割もこなせるカイトさん。文化に入学しなかったらいまの彼の姿はなかったかもしれない。
「高校時代はサッカーをやってました。サッカーの強豪校だったんです。ラーメン屋のアルバイトといった接客経験はありましたが、将来の夢は正直なところぼんやりとしてました。ファッションも好きだったから文化服装学院への進学を決定。ファッション流通科を選んだのは仕事につながりやすいと考えたからです。コロナ禍になりあまり学校に行けなかったのは残念でしたね。それでも友人の誘いでクラブDJをやったり、文化祭のショーでモデルをしたりといい経験をたくさんしてきました」
学校生活のなかでファッションがさらに好きになった。仕事に就くことを意識しはじめた大きなきっかけは、アパレル運営をシュミレートする授業。
「フロクシにもリサーチを協力してもらったリテールマーチャンダイジング(小売)の授業がとても役立ちました。クラスのメンバーでチームをつくり、ブランドを企画して店のコンセプトから店内レイアウト、販売方法まで細かく練っていくものです。人前でプレゼンすることもはじめての経験。この授業でもっとも学んだのは、アパレルが役割分担で成り立つ仕事なこと。PR(広報)も含めひとりではとても無理な作業ばかりでした。それまで気楽に眺めていたアパレルのたいへんさにようやく気づけて。どんな職業でもひとりひとりが役割をこなしてこそファッションの世界が成立するのだと」
ファッションはビジネスでもあり、どれほど素敵な服でも売れなければ誰も着ずに終わってしまう。カイトさんのそのことへの気づきは、昔の服を掘り起こして新しい命を与える古着店への愛情に結びついたのかもしれない。新品を売って利益を得る各ブランドにとって、2次流通である古着店は直接の利益にはならないだろう。しかしネットの口コミ力が大きい現在は、アーカイブが話題になり人気が復活するブランドまである。若い世代が着ることでブランドイメージも高まっていく。古着はSDGsの観点からもアパレルに欠かせない存在だ。確かな“役割分担”の一員になった21歳のカイトさんの未来の可能性は無限大。この先どのような道に歩みを進めていくのだろうか。
※2023年9月取材
LINKする卒業生 ・coma(駒林亮汰)(ファッション流通科 リテールプランニングコース卒業) 椿姫 デザイナー www.instagram.com/_tsubakihime ・天音( 尾上天音)(ファッション流通科 ファッションモデルコース卒業) Droptokyo勤務 www.instagram.com/drop_tokyo 「地元の静岡でブランドをやってるcomaも、ファッションメディア『ドロップトーキョー』で働く天音も、いつのまにか知り合って仲良くなった友人たちです」 |
記事制作・撮影
一史 フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。
Instagram:kazushikazu
関連サイト
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フロクシノーシナイヒリピリフィケーション公式インスタグラム。https://www.instagram.com/floccinaucinihiliqilification/
INTERVIEW
古着店スタッフ/DJ
カイト(小川魁人)
ファッション流通専門課程 リテールプランニングコース 2022年卒業
2002年、東京・八王子出身。高校卒業の年に文化服装学院に入学。学内ファッションショーのモデルやDJ活動などで大勢の友人と出会い多大な影響を受ける。卒業年の22年に東京・下北沢の古着店「フロクシノーシナイヒリピリフィケーション(floccinaucinihiliqilification)」にショップスタッフとして参画。最近の興味は海外渡航で、アジアを中心に旅をして見聞を広げている。
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Vol.027
バッグブランド運営 辻岡里奈/辻岡 慶
ファッション工芸科 バッグコース(現ファッション工芸専門課程 バッグデザイン科)卒業
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次回のVol.27はアウトドドアバッグのブランド「アトリエブルーボトル」を立ち上げて運営する、バッグ制作のスペシャリスト辻岡里奈さん 慶さん夫妻。文化の卒業生がたくさん参加しているこのブランドのモノづくりの素晴らしさに迫る!
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古着店スタッフ/DJ
カイト(小川魁人)
ファッション流通専門課程 リテールプランニングコース 2022年卒業
2002年、東京・八王子出身。高校卒業の年に文化服装学院に入学。学内ファッションショーのモデルやDJ活動などで大勢の友人と出会い多大な影響を受ける。卒業年の22年に東京・下北沢の古着店「フロクシノーシナイヒリピリフィケーション(floccinaucinihiliqilification)」にショップスタッフとして参画。最近の興味は海外渡航で、アジアを中心に旅をして見聞を広げている。
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ファッション工芸科 バッグコース(現ファッション工芸専門課程 バッグデザイン科)卒業
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