KAZUYA FUKASAWA

Yom代表取締役
MARLMARL創設者
深澤和弥

ベビー用品の常識を変え、
全国→世界を狙う経営者

ベビーギフトブランドの「MARLMARL(マールマール)」を立ち上げて約10年。カラフルでポップな子供服のセオリーをくつがえす、シックな色とデザインで新たな市場を獲得した深澤和弥さん。ネット販売からスタートして全国13の実店舗(2023年11月現在)を持つまでに成長した会社Yom(ヨム)の経営には、“社会の当たり前”に従わない反骨精神が息づいている。

MARLMARLのオリジナリティ

 

Yom原宿本社にあるショールームにて。大人顔負けのシック&クラシックな子ども服が並ぶ。


MARLMARLはスタート当初から独自路線だった。深澤さんと共同経営者のふたりが最初に企画したのがスタイ(赤ちゃんのよだれかけ)。四角の形しかなかったスタイを円状にして、汚れたらくるくる回して使える画期的なアイデアを込めた。丸い形がおしゃれなつけ襟のようでもあり、実用性とファッション性とが見事に合致して大ヒット。現在も一番人気のアイコン商品になっている。MARLMARLのブランド名は、スタイの丸い形からのネーミングである。

MARLMARLの最初のヒットアイテムにして、ブランドの象徴でもある丸いスタイ。

このスタイをはじめもうひとつ革新的だったのが、ハイセンスな大人好みのモノトーンやナチュラルカラーを採用したこと。深澤さんが当時の発想を次のように語った。
「僕がおしゃれと感じるものをつくりました。日本でベビー服といえば、男児ならベビーブルー、女児ならベビーピンクが当たり前。その枠組みと違うものがあればいいと思い、くすみカラーやニュアンスカラーのベビー用品にしたんです」
クリエイティブなモノづくりの醍醐味とは、誰も気づかないことに気づき、誰もやらないことに挑むこと。「子ども服とはこういうもの」との常識に縛られなかった深澤さんだからこそ、「こんなのがほしかった!」と思わせるベビーファッションを生み出せたのだろう。

贈られて誰もが喜ぶ上等な品質のスタイ。

“子ども服”でなく“ベビーギフト”


「MARLMARLはギフトブランドです。プレゼントしていただく存在」
そう話す深澤さんのブランディングには確かな理由がある。出産祝いを贈る人が一定層いること、セール品をギフトに選ぶ人はおらず定価販売できること、ギフトには「センスがいい」と思われる上質な品を選ぶ心理が働くこと、など。他社と比べて高価なMARLMARLはブランド力を上げ、売上が急上昇していった。
「雑貨に近いギフトの位置づけで、インテリアのコンランショップやバーニーズ ニューヨークらの有力店での取り扱いも決まりました」
ファッション感度の高い店が認めたMARLMARL。ベビー用品の知識がない人の目に止まったことも新市場開拓へとつながったのだろう。

ショールームに置かれたギフト見本。ギフトは魅力的なパッケージも大切な要素。

撮影スタジオまである直営店

2018年にオープンした「MARLMARL 伊勢丹新宿店」。歴史ある大手ブランドが連なる子ども服フロアへの出店。photo©Yom

スタート当初はネット販売を軸にして、2015年に東京・代官山に実店舗をオープンさせた。
「リアル店舗をひとつは持つ必要性を感じてました。場所は当時次々に話題の店がオープンしていた代官山。店をつくった理由は、ビジネス界全般のリサーチから導き出した考えです。当時の社会で勢いがあったのは中国のスマホメーカー。たくさんあったなかでとくに業績が伸びていたのがファーウェイとシャオミイの2社。このうちリアル店舗を持つファーウェイの業績が伸びていきました。リアル店舗を持つことの重要性を実感するようになり、MARLMARLも店を構えることにしました」
深澤さんがアパレル分野だけを見る経営者だったら、思いつかなかった行動かもしれない。社会全体を俯瞰して立ち位置を定めて、自身がほしいものを形にしている。
「企画にはニーズ(Needs)とウォンツ(Wants)の2種類があります。僕は『ほしい』と思うウォンツに基づいて行動します。新しいことをしても慣れてしまうとしだいに単なる“景色”になり、気づきが薄れるものです。重要なことを見過ごしてしまうんですね。心に引っかかったことを汲み上げる意識が大切でしょう」

「STUDIO MARLMARL」の公式サイトより。子ども撮影の新しい方向性をクリエイト。photo©Yom

写真館的な撮影スタジオ「STUDIO MARLMARL(スタジオ マールマール)」の併設店を丸の内につくったのも、ウォンツ発想によるもの。プロが子どもを撮影するスタジオはほかにもあるのに、なぜMARLMARLが手掛けたのだろうか。
「僕自身にも幼い子どもができたタイミングでの企画です。おしゃれな写真がほしいときに行きたいスタジオがなく、自身のウォンツに従ってつくりました。同じ思いを抱えている人がほかにもいるだろうと予測して」
STUDIO MARLMARLは大人びたシックな空間。おとぎ話のファンタジーとは別世界のスタイリッシュなムードだ。

2018年にオープンした「STUDIO MARLMARL 丸の内店」。販売と撮影スタジオの併設業態。photo©Yom

いまやYomの事業はMARLMARLに留まらない。撮影スタジオをはじめ、「花のあるギフト」をテーマにしたフラワー事業「CADO MARLMARL(カドーマールマール)」、育児に関わるすべての大人(ペアレンツ=保護者)向けのブランド「MATO by MARLMARL(マトー バイ マールマール)」も展開。他社の企画を請け負うOEMまで幅が広がっている。

社員とともにつくった企業理念

コロナ禍で実店舗の運営もままならなかった2020年に深澤さんが行ったのが、企業理念の正式な発足。社員数も増え続けオフィスの規模も拡大するなかで、発想と行動の指針になるフィロソフィー(哲学)を明文化した。
「ショップスタッフも参加して会社の理念をつくりました。重要なパーパス(目的、目標)は、『子育てにワクワクを!』です。『ギフトでつながるコミュニケーションの輪をつくる』『子どもがいるライフスタイルを自由にデザインできる社会』も標語。Yomにとっていまもっとも大切にしている企業理念です」
少子化社会のなかで、子どもたちの役割は大きくなる一方だ。MARLMARLをギフトに選んだり我が子に着せる大人たちと深く関わることが経営の基盤になり、社会と結びついてブランドの存続と発展に寄与していくのだろう。

ショップスタッフが集った会議で仕事のノウハウと理念を語る深澤さん。

人生経験で得た経営スタイル

一般大学生だった深澤さんは、ファッションの仕事を目指して卒業後に文化服装学院に進学。選んだコースはファッションビジネス科(現リテールプランニングコース)だった。
「スタイリスト科と迷いビジネス科に決めました。大学の同級生は皆就職してましたから、仕事に結びつきやすいコースを考えた結果です。スタイリスト科も候補だったのは、当時はスタイリストがよく雑誌に登場する人気職業で憧れがあったから。入学して心楽しかったのは、おしゃれな人ばかりだったこと。大学や地元では得られない体験でした。週に4日は街に服を見に行ってましたね。メンズでは『ミスターハリウッド』や『ネイバーフッド』の全盛時代です」

高品位なオフィスビルに入居する本社の一角。社長室や企画デザインチームの部屋とつながる広々としたワンフロアだ。

卒業して小売会社に就職し、アパレルメーカーに転職。仕事先で得た気づきが深澤さんのファッションビジネスの指針を生んだ。
「とにかく服がセールで安く販売されるのがイヤでした。つくった服を自分たちで安く売ることは、自ら価値を下げる行為でしょう。セールは一時的に大きな売上になりますが、そのとき会社の人たちが『よく売れた』と喜んでいることにも納得がいかず。セールで売ることが目的になってしまうと服づくりの本質がわからなくなってしまいます。そこで独立してビジネスをやるにあたり、セールしないこと、B to C(Business to Customer)で消費者販売すること、定番ブランドにすることなどを定めました」
この条件を満たせる舞台がベビーギフトだった。トレンドに左右されずシーズンごとに在庫消化する必要がない。自分たちで顧客に直接販売することで、ブランドが信頼されリピーターが増えていく。ギフトはネット購入しやすく買い物のハードルも低い。発明的な丸いスタイを商品の軸に据え、MARLMARLは最初から大手子ども服メーカーに追従しない独自の道に進んでいった。

MARLMARLチーフデザイナーの本澤明日香さん。彼女も文化服装学院の卒業生。 Yom社内での文化つながりだ。photo©Yom


いま世界へ目線を広げる深澤さんは、拠点を持つ中国と香港に加えて東南アジアの開拓にも着手している。12月にオープン予定の「MARLMARL 成田空港第2ターミナル店」は、訪日外国人をターゲットにした新発想の店。海外への新たな足がかりになりそうだ。
「まだまだ世界には出産祝いのマーケットがあると考えています。彼らが日本の商品を買いやすい円安のいまこそ海外展開を広げるチャンス。近頃はインバウンド(訪日外国人)のことばかり考えて日々を過ごしてます」
ファッションブランドを世に広めるには、しっかりとした会社の基盤が不可欠である。利益ばかりを追わずファッション愛に根ざす深澤さんのような人こそが、未来のアパレル業界の重要な鍵を握っているに違いない。


※2023年11月取材


LINKする卒業生

・横田太樹(ファッションビジネス科卒業)
MASAKA 代表取締役
www.masakajpn.com

・宮岡裕介(ファッションビジネス科卒業)
バンタン 事業企画部 就職サポートグループ
https://vantan.jp

「横田さんは自社アパレルやスタイリスト業務を行う会社の経営者。宮岡さんはデザイン専門学校のバンタンで学生の就職を斡旋している人。母校の文化服装学院勤めではありませんが(笑)」

記事制作・撮影
一史  フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。

Instagram:kazushikazu

関連サイト

INTERVIEW

Yom代表取締役/MARLMARL創設者
深澤和弥(ふかさわ・かずや)
ファッション流通専門課程 ファッションビジネス科(現ファッション流通科リテールプランニングコース) 2004年卒業

1979年生まれ。静岡出身。東海大学を卒業後に文化服装学院に入学。小売企業への就職、メーカーのMD職への転職を経て、共同経営者と共に2012年にYomを設立。高級ベビーギフトブランドのMARLMARLでベビー市場に参入。2014年には中国に会社を設立し当初から世界を目指す。近年はSDGs発想にも力を入れ、子どもたちが生きる未来に軸を定めている。

NEXT

Vol.029

Ray BEAMSバイヤー 園井りさ

ファッション工科専門課程 ファッション高度専門士科卒業

INTERVIEW

Yom代表取締役/MARLMARL創設者
深澤和弥(ふかさわ・かずや)
ファッション流通専門課程 ファッションビジネス科(現ファッション流通科リテールプランニングコース) 2004年卒業

1979年生まれ。静岡出身。東海大学を卒業後に文化服装学院に入学。小売企業への就職、メーカーのMD職への転職を経て、共同経営者と共に2012年にYomを設立。高級ベビーギフトブランドのMARLMARLでベビー市場に参入。2014年には中国に会社を設立し当初から世界を目指す。近年はSDGs発想にも力を入れ、子どもたちが生きる未来に軸を定めている。

NEXT

Vol.029

Ray BEAMSバイヤー 園井りさ

ファッション工科専門課程 ファッション高度専門士科卒業