ナノ・ユニバース企画チームに
加わった若手デザイナー
文化服装学院を卒業して1年。働く部署はナノ・ユニバースのオリジナル企画。念願の「TSIホールディングス」に就職した大澤凱心さんはいま、プロとして新しいファッションを創造する道に進み始めた。店舗数の多いセレクトショップでもあるナノ・ユニバースのオリジナルはどんな発想で生まれているのだろうか?学生時代に文化の夜間コースに通ったのはなぜだったのだろうか?大澤さんが辿ってきた道を探った。
ウィメンズウェアの仕事
多くの商業施設に入店しているナノ・ユニバース。ウィメンズのコアターゲットはOLなどの社会人層である。ブランドのコンセプトに基づくデザイン力が求められる。大澤さんが服づくりを次のように語った。
「ブランドの世界観を体現するために、トレンドも踏まえたリサーチが仕事の重要な要素です。人を魅力的に魅せるための『色気を纏わせる』服づくりがナノ・ユニバースの基本的なスタイルです」
店舗、縫製工場や物流センター、生産など約半年に及ぶ研修期間のあと現職に配属。研修を重ねるうちに、好きなことだけを追っていた学生時代とは意識が変わってきた。
「女性が実際に着て生活するシーンに合う服を考えるようになりました。学生時代には他人事のように外側から女性服を見ていたのに対して、主体的な見方をするようになってきたようです。イギリス人デザイナーのアレキサンダー・マックイーンへの憧れがファッションへの入口だった自分には大きな変化です。いまは企画チームの一員として、出されたテーマに沿う服づくりをしています。自分の意思を持つのはいい服をつくる上で大切な要素ですが、独りよがりでもダメなことに気づいて。お客様の気持ちに響く服をつくりたいです」
昨年4月に入社してすぐ、商業施設の「ルミネ有楽町」の「MHL.(エムエイチエル)」で約5ヶ月に渡り販売研修で店頭に立った。つくった服を買って着る人がいること、客が求めることを学んだ。
「自分が服を買う側でしかなかったときは、お客様の感覚をわかっていませんでした。店にいることで販売スタッフの立場に立った見方もできるようになりました。売る服のよさをスタッフがきちんとお客様に説明できるわかりやすい服をつくろうとも考えるようになり。とはいえ販売を意識しすぎると発想が固まってしまい、いい服をつくれなくなる可能性もあります。その両面を自分のなかでバランスよく保っていければと願っています」
様々なブランドやショップが入店するルミネで働いたことで、これまでなかった服づくり発想にも気づいた。
「ルミネという館(やかた)のなかで、ナノ・ユニバースにどう個性を持たせるか。同じ館のなかで差別化できる服をつくるデザインが必要なことを知りました」
様々なファッションスタイルの集合体である商業施設では、個性ある服が客を呼ぶのだろう。現場体験なくしては知り得ないグローバルな目線だ。
初めてデザインした商品は、
モード感のあるボウタイブラウス
大澤さんのデザインによる初めての商品がもうすぐ販売される、それが以下の写真のノースリーブのボウタイブラウス。デザインの大きなポイントは、ボウタイの幅を細くしてシャープにしたこと。
女性服にネクタイやロングストールを組ませた世界のモードともリンクするデザイン。マックイーン好きだった大澤さんらしい服。できあがるまでのプロセスを彼が次のように語った。
「社内で提示されたお題は、『シンプルなボトムに合う、デザイン性のあるトップス』。テーマをクリアすべくボウタイブラウスにしたのですが、フェミニンな要素を得意とするナノ・ユニバースの嗜好を変え、 あえてボウタイの幅を細くしました。生地はしなやかな落ち感と軽さのある女性らしいサテン。 オフィスでもカジュアルでも着ていただければと思います」
肩幅はコンパクトで華奢ながら、布分量が多く身幅はゆったりとフレア。女性らしさにクールさを足した一着だ。
「この会社しかない」と
心に決めた就職
リアルクローズからゴルフブランドまで、ウィメンズ、メンズの幅広い業態を手掛けるTSIホールディングス。大澤さんがこの会社で働きたいと願うようになったのは、就職情報サイト「マイナビ」で、新卒採用に向けた企業メッセージを見たことがきっかけ。
「 『ファッションエンターテインメント創造企業』であることをパーパスに掲げ、「脱アパレル ONLY 企業」 を目指していること。“ファッションだけじゃない”という考え方にすごく共感したんです。服づくりだけに留まらないクリエーションにずっと関心を持ってきました。『新しいものをつくっていきたい』という思いを抱えていて。それをやれる可能性を感じたのがTSIホールディングスでした」
クリエイティブ領域の総合職で入社。研修・面談を経て現在の部署への配属が決まった。
「デザイナーとしての経験を積み、服づくりに留まらないアイディアを形にする新たなクリエイティブにも今後挑戦したい」という。
社会人1年目から新しい道へと大きく踏み出していった。
ファッションの世界を目指して
夜間Ⅱ部服装科へ
10代の頃から思い切った人生を歩んできた。高校を中退してファッションの世界に飛び込んだ。
「辞めたのは3年生のときです。アレキサンダー・マックイーンのファッションに出会ってしまったから。居ても立っても居られなくなり、服をつくる時間がほしくて中退しました。高等学校卒業程度認定試験を受け高卒の資格を得て文化服装学院に進学。Ⅱ部服装科を選んだのは、昼間の時間に自由な服づくりをしたかったから。自分とじっくり向き合う時間がほしかったことも理由のひとつです。アルバイトをしつつお金を貯め、自分のブランドをつくる活動をしていきました。その頃は独立ブランドのデサイナーになる姿を思い描いていました」
デザイン画やポートフォリオを提出するファッションコンテストに応募したことも。
「雑誌の装苑が主催する装苑賞に応募し、1次審査を通過して2次審査用の服をつくりました。ソマルタの廣川玉枝先生に作品を見せて講評をいただきました」
こうした経験を重ねるうちに、興味の対象がファッション周辺に広がっていった。
今回のLINKSでの取材を終えて、「僕の就職活動、入社後のストーリーや目標を通じて、ファッション業界を目指す学生の皆さんの身近な参考になれば幸いです」と後輩への思いも伝えてくれた大澤さん。社会に出てデザイナーになったいま、ウィメンズ企画チーム6名のなかで数少ない男性であること、モード好きなことが大澤さん独自の新しいファッションの創造に結びつくかもしれない。物事に柔軟に対応する彼の仕事姿勢が花開く時期も遠い先ではなさそうだ。
※2024年4月取材
LINKする卒業生 ・縄田まどか(ファッション工芸専門過程 ジュエリーデザイン科卒業) ジュエリーブランド「BERNADETTE」デザイナー、ジュエリーブランド「CHAN LUU」の販売スタッフ&VMD 「文化以前からインスタグラムで繋がっていて、入学後はたびたびモデルを頼んでいました。学生時代はジュエリー科の教室に遊びに行ったり、いまは彼女のブランドの展示会に顔を出したりして、社会人になったいまも仲良しです」 ・小杉英一(II部服装科卒業) Ⅱ部服飾専門課程 服装科 「ll部のファッションショーに出した彼の作品がすごく好きで、声をかけたことから仲良くなりました。いまでも時たま連絡を取り、いろいろな情報を交換しています」 「ふたりとも文化つながりの仲間ですが、コロナ禍での学生生活だったため、平常時よりは輪の広がりは狭かったかもしれません。でもこの先にも繋がって行くと思える人たちと出会うことができました。皆で世界に楽しいことを発信できたらと思っています」 |
記事制作・撮影
一史 フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。
Instagram:kazushikazu
関連サイト
-
TSIホールディングス公式サイト。https://www.tsi-holdings.com/
-
ナノ・ユニバース公式通販サイト。https://store.nanouniverse.jp
INTERVIEW
ナノ・ユニバース
企画デザイナー
大澤凱心(おおさわ・かいは)
Ⅱ部服飾専門課程 Ⅱ部服装科 2023年卒業
2000年生まれ。群馬出身。日中はファッションブランドのPRや企画のインターン経験などをしながら文化服装学院で夜間に就学。23年の卒業年にクリエイティブ領域の総合職としてTSIホールディングスに入社。現在、ナノ・ユニバース事業部 Women'sセクション企画で日々の仕事に従事している。
NEXT
Vol.033
ファッションライター 岡島みのり
ファッション流通科 リテールプランニングコース卒業