縫製工場を運営して
ハイエンドな服を作るパタンナー

吉川順一朗さんは縫製工場を運営する会社「FARMILIA(ファミリア)」を仲間と共同で立ち上げたパタンナー。次世代のハイクオリティな服作りを目指して設立した工場は、世界で働いてきた人たちが縫製を担当し高い技術力を誇る。文化服装学院の学生時代からフリーランスとして外注でパターンを請け負っていた吉川さんと仲間の仕事現場を訪ねた。
縫製、OEM、パターンの会社を設立

FARMILIAは服のパーツや素材の業者が多い東京・浅草橋のビルに拠点を構えている。広いフロアに各種のミシンがずらりと並ぶ。縫製スタッフを含めここで常に働いている人は先鋭の5名。専務取締役の肩書も持つ吉川さんが会社設立のいきさつを語った。
「きっかけは僕がパタンナーとして仕事をする中で出会ったブランドから、『求めるものを縫ってくれる工場がない』との声が多かったことです。友人の金子 覚(かねこ・さとる)と相談して一緒に工場を設立することに決めました。目指したのは、ハイエンドクラスの高級衣料を縫う工場。品質のよさが私たちの売りです。発注されるアイテムはメンズジャケットなどのアウター類が多いです」
ファッションブランドのサポート発想からスタートした会社なのだ。

働くことへの意識が人一倍高く、学生として学びながら外注で服のパターンを手掛けていた吉川さん。依頼が次々に舞い込むようになり収入の目処も立ち、2020年に卒業する前に個人事業主として役所に開業届けを提出。フリーランスで活動することを決めた。いったいどうやって学生が服作りの仕事を得るようになったのだろうか。
「通っていた古着界隈の人たちからの発注だったり。文化の先生が仕事を紹介してくれることもありました。口コミで広がっていきましたね」

プロとして相手を満足させる仕事ぶりだったことが評判を挙げたのだろう。現在のFARMILIA内でもOEM(外注請負の服作り)やオリジナルブランドなどでパターンが必要なときは主に彼が担当する。パタンナーであることが彼の本分なのだ。
一貫生産するオリジナルブランド「OAR」

企画、パターン、縫製、すべてのプロセスを自社でまかなえるブランドの「OAR(オール)」。パターンは吉川さんがすべて手掛けている。FARMILIAスタッフが確実に「自分たちが作った服」と言い切れるブランドに仕上がっている。

OARにはFARMILIAならではのもうひとつの役割がある。それは縫製技術やパターン技術の高さをアピールする見本でもあること。
「自社ブランドだからこそ凝った仕様の服にできます。FARMILIAに製造発注する人たちがこの服を見れば『こんなことができるのか』と気づいていただけるでしょう」

主な販売先は東京・清澄白河の「MONDO」。アーツ&クラフツのコンセプトストアで、FARMILIAが他社と共同経営している。金曜〜日曜(及び休日)の限定営業だ。気になる人はぜひ足を運んでみよう。
全5名のうち文化卒業生が3名

上写真の3名は、全員が文化の卒業生。左から長谷川拡希(はせがわ・ひろき)さん、中央は吉川さん、右は水野和真(みずの・かずま)さん。長谷川さんはファッション工科専門課程 ファッション高度専門士科で、水野さんはファッション工科専門課程 アパレルデザイン科で学んだ。ふたりとも卒業後に渡米している。ニューヨークでデザイナーズブランドのサンプルや、セレブ向け一点もののドレスなどを縫う仕事に就いた。長谷川さんいわく、
「ニューヨークの経験がありますから、どれほど凝ったデザインの服でも縫える自信があります」
ふたりとも帰国してFARMILIAの立ち上げから参画。長谷川さんは経営者の一員でもあり、水野さんは営業・企画製造を主に担当している。

FARMILIA周辺にはこうした文化つながりが多い。「そういえば」と長谷川さんが会社創業時を振り返ったのが、はじめて縫製を発注してもらったブランドのこと。
「工場の最初のクライアントはユークロニアでした。デザイナーのひとりの佐藤百華(さとう・ももか)さんが僕の文化時代の同級生だったんです」
パターンを外注するときも、吉川さんの同級生のパタンナーが何人も協力してくれている。文化つながりがいつも活きている仲間たちだ。
パタンナーへの道

「ずっと京都の田舎で暮らしてきました」という吉川さん。絵描きの両親の元で10代まで過ごした。将来にやりたいことを探るなかで語学系の大学への進学や、アメリカ留学なども候補になる。そのなかで気持ちを定めたのがファッション分野だった。デザイナーでなく、服の構造を作り上げるパタンナーに将来を見出した。

「職人気質に目覚めていったんです。パターンは絵を描いている感覚に近い作業。さらに服の構造の理論を組み立てる楽しさもあります。感覚と理論の両方があり、更に好きな古着から得られる知識の重要性もあり。昔はこうで、いまはこうでという考察をしながら新しい服を組み立てていくのが自分には向いていると考えています」
FARMILIAが服作りを自己完結できる組織なのは、彼の役割が大きいのだろう。企画した服をタイムロスなく現物に仕上げられる。
「ここでなら企画、パターン、縫製をスムーズに流していくことができます。素材調達も業者が集まっている浅草橋という土地に会社があることで楽に行えます。うちの工場にはパターンの出力機械も設備しています。友人の文化出身のパタンナーたちが『貸してほしい』とよく会社にやってきますよ。個人で揃えられる機械ではないので、こちらの手が空いているときは貸してあげるようにしています」
人が集まればそこに仕事上の会話も生まれる。吉川さんは文化を卒業後も定期的に仲間たちと情報を共有し続けている。既存の枠に収まらず次世代ファッションの産業を広げるには、仲間たちとの連携が欠かせないのだろう。
それでは最後に吉川さんに、パターンを依頼された相手とどのように接したらいいか、パタンナーとしてのアドバイスを尋ねてみた。彼の答えは以下の通り。
「どこまで自分自身を打ち出すか、バランスを見極めることが大切でしょう。デザイン画を見て問題がある箇所があればきちんと無理だと説明することが大事。パタンナー目線の経験則で判断する必要があります。仕事を依頼してくれた相手としっかり話し合い適切な距離感を保ちつつ、いい服を作る最善の方向を一緒に探っていきましょう」
※2025年6月取材
LINKする卒業生 ・小澤 陽太 アパレル技術科卒業 アイドル衣装デザイナー/パタンナー 「パタンナーとして、技術を定期的に共有しあえる友人です。得意なアイテムが違うからこそ、互いの新しい発見を補っています」 ・稲葉 賢斗 Ⅱ部服装科卒業 トランス・ファー 勤務 ニット生産管理 「同級生で唯一ニットに企業に勤めている友人で、自社のニット製品を企画する際は彼にいつも相談しています」 |
記事制作・撮影(取材)
一史 フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。
Instagram:kazushikazu
関連サイト
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FARMILIAの公式サイト。※7月中旬ごろ公開予定。https://www.farmiliallc.com/
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FARMILIAのインスタグラム。※7月中旬ごろ公開予定。https://www.instagram.com/farmilia_llc?utm_source=qr
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OARの公式サイト。https://www.oarofficial.com/
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OAR公式インスタグラム。https://www.instagram.com/oar_journal
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8月上旬にオープン予定の古着店「スプートニク」の公式インスタグラム。https://www.instagram.com/sputnique_1
INTERVIEW
FARMILIA
共同創業者
パタンナー
吉川順一朗(よしかわ・じゅんいちろう)
アパレル技術科生産システムコース 2020年3月卒業
京都出身。文化服装学院に通いながら、フリーのパタンナーとして活躍。2023年、縫製工場を主業とする会社「FARMILIA」を友人と共同設立。パターン、OEM製造などの活動と並行して、オリジナルブランド「OAR」をスタート。FARMILIAとして25年8月に古着店「Sputnique(スプートニク)」を新宿(最寄り駅は都庁前)にオープン予定。
NEXT
次回のVol.47は、世界的なデニムの雄、「リーバイス」でマスターテーラーを務める田 真行さん。採寸からパターン、裁断、縫製までひとりで手掛ける、世界でわずか6名しかいないジーンズ職人の仕事とは?
INTERVIEW
FARMILIA
共同創業者
パタンナー
吉川順一朗(よしかわ・じゅんいちろう)
アパレル技術科生産システムコース 2020年3月卒業
京都出身。文化服装学院に通いながら、フリーのパタンナーとして活躍。2023年、縫製工場を主業とする会社「FARMILIA」を友人と共同設立。パターン、OEM製造などの活動と並行して、オリジナルブランド「OAR」をスタート。FARMILIAとして25年8月に古着店「Sputnique(スプートニク)」を新宿(最寄り駅は都庁前)にオープン予定。