『推しの子』の衣装も手掛けた、
アイドル衣装クリエイター

アイドルを中心に衣装デザイン・制作を手掛ける成田あやのさん。自身が設立した衣装制作会社「udonfactory」の代表でもある。前例がないジャンルに挑んで道を切り開いていくクリエイターだ。彼女の仕事ストーリーは衣装制作に憧れる人必見!
衣装にストーリーを

文化服装学院の夜間コースであるⅡ部 服装科を卒業した成田さんは、最初から独立して衣装制作の活動をスタート。アイドル衣装というファッションジャンルが、いまほどメジャーでなかった時期でのチャレンジだった。彼女が活動初期の様子を次のように語った。
「もう死ぬほどたくさん、各タレント事務所にメールを送りましたよ!衣装を手掛けたい希望を熱心に伝えて」
衣装制作はクライアントから依頼されることから始まる。そのきっかけを生むために成田さんが考えたのが、アイドルの所属事務所へのメール攻勢だった。学生時代からスタイリストのアシスタントにつき、ミュージックビデオの撮影現場に行った。現場の空気を肌で感じて、独自のアプローチ方法を探っていった。
こうして仕事を軌道に乗せ、各所から依頼が舞い込むようになった。現在レギュラーで衣装デザイン・制作を担当しているグループのひとつが、地元の青森県を拠点に活動する「りんご娘」である。

「彼女たちの衣装をやりたくて、りんご娘さんの所属事務所に希望を伝えました。採用されてなんども青森に足を運び完成させていきました。地元に帰る感覚での移動でしたから、ぜんぜん苦ではなくて。あまりによく行っていたため、地元の人に『活動拠点をこっちに移せば?』と言われたほど(笑)」
りんご娘が今の体制になったタイミングから、新曲を出すたびに成田さんが衣装を手掛ける。デザインには彼女ならではのスタイルが込められている。
「物語のある衣装を目指しています。りんご娘のときは青森の歴史を記号として入れて。例えば伝統工芸の津軽塗をモチーフにした柄にしたり、こぎん刺しをプリント模様にしたり」
衣装が変わり世代交代しても、この物語はずっと続いていく。

物語のある衣装をより多くの人に披露するため、青森で衣装展も開催。東京や北海道などから見に来るりんご娘のファンもいれば、アイドルと無縁な地元の人たちも訪れた。期間中は成田さんも会場で来客との会話を楽しんだ。
「衣装に興味を持ちわたしに会いに来てくださる方もいる展覧会です。衣装からアイドルに興味を持っていただけることもあります。衣装から広がる世界やグルーブがあるのです」
ドラマ・映画『推しの子』の
衣装を手掛けて

23〜24年に掛けてドラマ放送、映画公開されたコミック原作の『推しの子』の衣装も成田さんが手掛けた。全国的なメジャー度が高い作品への初参加であり、ドラマ・映画にも初挑戦だった。この仕事で強く感じたことはなんだろうか?
「関わる人たちが大勢いることに驚いたのが、もっとも印象的なことでしょうか。監督をはじめプロデューサーさんなどの制作スタッフがそれぞれの意見を持っていて、作る衣装にその意見を反映させていきました。アイドル事務所とメンバーだけの意見で決まる通常の仕事と違い、サンプルを何着も作り変えることに。撮影ギリギリになんとか間に合ったこともありましたね。終わった直後は満足感よりも、『完成できてよかった!』という安堵感のほうが強かった(笑)」


これほど大きな仕事で彼女に声が掛かったきっかけは、監督のスミスさんと知り合いだったこと。スミスさんを通じて映画会社の東映から連絡があった。様々な現場を訪れて売り込みも続けてきたことが、今回に結びついたようだ。
「衣装の仕事は顔見知りから依頼されることが多いです。知らない、会ったことのない人に重要な仕事を任せるのは不安なもの。わたしは文化の学生時代から撮影現場やライブ会場に足を運んできました。現場を見たい好奇心からやってきたことですが、その活動が将来の仕事へとつながりました。衣装制作を仕事にしたい人は、同じように積極的に現場に行くようにするといいでしょう。誰からに目に留まりアシスタントに採用されるかもしれません。大きなチャンスがあります」
フットワーク軽く動くことの大切さも説く。
「仕事を振られる人になりましょう。現場に呼ばれる1番手になることです。プロが集まっている場所でちゃんと挨拶して場の空気を読み、どの人が何を求めているのか感じて対応すること。言われたことだけやる受け身の人は1番手になれません。仕事のメンバーに選んでもらえない。若いから許されることもありますし、失敗を恐れずに積極的に行動しましょう」
衣装がカルチャーになり
シーンを盛り上げる
成田さんは自主企画によるアイドルの合同ライブ『Eudemonics+(ユーデモニクスプラス)』を年1回のペースで開催。“動く衣装展”とも呼べるイベントだ。


衣装デザイナーとして成田さんはMCも担当。ここにはアイドルファンだけでなく衣装ファンも集まる。衣装からアイドルカルチャーを広げる新しい試みだ。
「文化祭の前の期間がずっと続くような日々」
忙しい日常を「文化祭の前の準備期間が毎日続いているよう」と彼女は言い表す。udonfactoryのアトリエではスタッフを指導して、自らもミシンに向かう。

udonfactoryのスタッフになるなら、アイドルが大好きなことが必須条件なのだろうか?そのことを尋ねると意外な答えが返ってきた。
「いいえ、むしろアイドルが好きじゃないほうがいいくらいです。アイドルを好きすぎると、新しいアイディアや提案を思いつかなくなるんですね。わたしは若い人からいろんな意見を聞くのが好きです。それが衣装仕事に役立ちますから、異質な感覚を持つ人と働きたいです」
縫う技術やパターンの技術なども必要そうだが、
「そこもあまり重要ではないですね。というのも、学校で縫う服とアイドル衣装とでは扱う素材がまったく異なるからです。うちに所属してから鍛え直してもらわないといけません。衣装は動きやすさや洗濯しやすさなどが大切な要素。アパレルの服とは発想が違うんです」

アイドル衣装の仕事を目指す人たちに向けて、さらに次のようにアドバイスしてくれた。
「衣装はまずクライアントの要望に応えることが第一。さらに納期を間に合わせることも必須です。無理のあるスケジュールでも、請け負ったら絶対に納品しないといけません。その責任感を持つようにしましょう。“自分らしいデザイン”といったプライドをなくせるかどうかも大切。ファッションの学校ではデザインが優れている人の評価が高いものです。でも現実の仕事では、デザイン力より重視されることがたくさんあります」
学内であまり評価されない人でも、衣装制作では力を発揮できるかもしれない。まずは仕事の現場に行き、自身の資質を見つけよう。

デザイン科の高校を卒業後に上京し、昼間に働きつつ生活費も学費も自らまかない人生を切り開いてきた成田さん。夜間に文化に通うことを薦めてくれたのは高校の先生だった。働きながら勉強した日々を、
「あっという間に過ぎていきました。皆さんからは『大変だったでしょう』とよく言われますが、ぜんぜんそんなふうには思ってなくて」と振り返る。
3年間通った文化卒業後もポジティブに歩み続けて現在のポジションを手に入れた。アイドル衣装の歴史を自らの手で更新し続ける彼女の活躍は続く。
※2024年5月取材
LINKする卒業生 ・大場千夏 Ⅱ部 服装科卒業 スタイリスト https://www.instagram.com/chinatsunostyling/ 「夜間コースには大学生、社会人、年配者など様々な人がいました。『どんな仕事をしてもいい』と思えた環境でした。わたしが就職せず最初から独立したのも、ここで学べたからだと思います。ここにご紹介している大場さんはこのときの同級生。現在スタイリストとしてタレントのスタイリングなどをしています」 |
記事制作・撮影(取材)
一史 フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。
Instagram:kazushikazu
関連サイト
-
udonfactory公式サイト。https://www.udonfactory.net/
-
成田あやのインスタグラム。https://www.instagram.com/nrtayn_95/
INTERVIEW
udonfactory
アイドル衣装クリエイター
成田あやの(なりた・あやの)
Ⅱ部 服装科 2015年卒業
青森出身。高校でデザインを学び、上京して文化の夜間コースに進学。3年間修学して17年に衣装クリエイターとして独立。アイドルグループ「CY8ER(サイバー)」 などの衣装を制作。24年、自身が代表を務める衣装制作会社「udonfactory」を設立。同年、実写ドラマ『推しの子』の衣装を担当。同年、劇場版『推しの子』の衣装を担当。
NEXT
次回のVol.46は、パターン制作会社「FARMILIA」を立ち上げた吉川順一郎さん。学生時代から企業から請け負ってパターンを外注していた吉川さんが思い描く、パタンナー集団の未来像とは!?
INTERVIEW
udonfactory
アイドル衣装クリエイター
成田あやの(なりた・あやの)
Ⅱ部 服装科 2015年卒業
青森出身。高校でデザインを学び、上京して文化の夜間コースに進学。3年間修学して17年に衣装クリエイターとして独立。アイドルグループ「CY8ER(サイバー)」 などの衣装を制作。24年、自身が代表を務める衣装制作会社「udonfactory」を設立。同年、実写ドラマ『推しの子』の衣装を担当。同年、劇場版『推しの子』の衣装を担当。