オーダーメイドのリーバイス® を手掛ける、
アジア地域ただ一人のマスターテーラー

オーダーメイドのデニムは、デニム好きが辿り着く究極の憧れ。世界で初めてブルージーンズを発明して以来デニムの歴史を作ってきたリーバイス® には、その夢を叶える特別なサービスがある。それが顧客が注文するフルオーダーの「ロット・ナンバーワン(LOT No.1)」。この制作を任されたアジア地域でただ一人の「マスターテーラー」が田 真行さんだ。パターンを引き裁断して縫う、デニム専門のカッター&テーラー。田さんが働くアトリエには、リーバイス® 好きが歓喜するディテールがぎっしり詰まっている。
その名は「LOT No.1」


フルオーダーのデニム(パンツとジャケット)を扱う日本の店は、「リーバイス® 原宿 フラッグシップストア」。全国の一部店舗では店内の一角に既製品をカスタマイズする「ザ リーバイス® テーラーショップ」を設けている。採寸してゼロから仕立てる「ロット・ナンバーワン」は原宿の店だけだ。アジア地域全体でもここだけのサービスである。
田さんは店で客のリクエストを聞きながら採寸する。そのデータを西麻布にあるアトリエに持ち帰り仕立てていく。肩書はアメリカ本国が認めた「マスターテーラー」。彼がその定義を次のように説明した。
「まずロット・ナンバーワンをつくれる人であること。さらに各テーラーショップを管轄してテーラーたちを指導するのも役割です。カスタマイズ担当のテーラーは現在、全国で約20人います。ただ彼らは原則としてフルオーダーのデニムを仕立てることを許されていません。それができるのはマスターテーラーである僕と、同じアトリエに勤めるもう一人のテーラーの2人だけです」

毎月仕立てるデニムは約15着ほど。いまビンテージでも新品でもデニムがトレンドなこともあり、オーダーの数は日増しに増え続けている。
「パンツで価格が一着10万円以上するサービスでも、多くのオーダーをいただいています。2024年よりトラッカージャケットもロット・ナンバーワンで扱うようになり、上下セットアップで購入される方が増えたことも人気の理由のひとつです。ただ申し訳ないことに、完成までお待ちいただく期間も少し長くなりました。現在は4ヶ月ほどお待ちいただくこともあります」
アトリエで田さんたちが一着一着に真剣に向き合っている姿を目にすると、長い製造時間も高価な価格も順当だとわかる。世界各地のデニムの大量生産工場とは異なる仕立て世界がここにある。
イギリスのマスターテーラーから指導を受けて


ファッションの店での接客業から転職してリーバイス® のテーラーになった田さんは(※詳細は記事後半にて)、オーダーメイドを担当するとき海外スタッフの指導を受けた。来日したのは紳士服の仕立ての本場であるイギリス・ロンドンのマスターテーラー。
「ベテランの彼から1ヶ月半くらいでしょうか、みっちりとトレーニングを受けました。世界ではロンドンのロット・ナンバーワンがいちばん好調です。続くのはフランスのパリ。ヨーロッパの人のほうがアメリカ本国よりオーダーメイドの関心が高いようです」

トレーニングのとき田さんが興味深く感じていたのは、指導者がミシンの糸調子にとくに気を配っていたこと。
「糸調子はミシン縫製の基本とはいえ、そこに強くこだわっていたのが印象的でした。練習のとき最初はその感覚に苦労しましたね。いかに糸調子をきれいに縫うか」
縫製ひとつでもロット・ナンバーワンが特別なことがよくわかるエピソードだ。一方で裁断やパターンは田さんには大きな驚きがなかった。
「文化服装学院で学んだ知識ですでにデニムの構造を理解していました。通っていた服装科はひたすら縫う科でしたから。洋服の構造は見ればすぐわかります」
ワークウェアとして歴史的に大量生産されてきたデニムには粗雑ゆえの味わい深さがあり、それを愛するデニムファンもいる。しかし高級感や特別感を求めるなら、現在のリーバイス® においてロット・ナンバーワンこそが頂点だろう。

服作りも接客も楽しむ

仕事の喜びを感じるのは、顧客に完成したデニムを渡すとき。
「いちばん緊張する瞬間です。でもこのときこそ、つくってよかったと思える。『感動しました!』と言われることもあります。そこを目指して仕事しているから嬉しいですね。再びオーダーするリピーターになる方もいて、ご満足いただいたことの証。リピーターを増やすのが大きな目標のひとつです」
顧客は田さんがパターンも縫製も行うことを知らずに来店するケースが多い。思いもかけずつくり手の顔が見える特別な買い物体験。田さんが仕立てたデニムは何重もの奥深いレイヤーを内包している。



制作している最中も気分が上がる瞬間がある。
「パターンを引いて裁断して後ろ身頃ができたときに、『お〜!』という嬉しい気持ちになります。後ろ身頃さえあればデニムの全体像が見えてきますから。あと気分がいいのはブランドのパッチを取り付けたとき。最後の最後につけるんですよ。この作業をしたときに『できた!』という達成感があります」

広いアトリエで働くのは現在ふたりだけ。パターンと裁断のデスク、各種ミシン、アイロン台を行き来してスピーディに作業していく。パターンの基礎となるマスターパターンは、アメリカ本国から送られた世界共通のグルーバル基準だ。パンツではウエスト23〜48インチまで揃ったパターンを、顧客の採寸と好みに応じて修正しつつ仕立てていく。
9年間のショップ勤めの先に

田さんの前職は、アメリカントラッドの雄であるブルックス ブラザーズの販売員。文化を卒業してすぐ就いた職だった。
「コレクションブランドへの興味が薄く、ブルックス ブラザーズに就職しました。接客をやりたくて販売員に。『接客を知っておいて損はない』との考えからです。性に合ったのか9年間勤めました。その間も服作りを趣味で続けつつ。しだいに違う仕事に挑戦したくなり、リーバイス® に勤めていた友人から話を聞いてテーラーになることに。最初はお客様のカスタマイズや、ブランドとつながりのあるミュージシャンやセレブリティ用に衣装などを制作。その後にロット・ナンバーワンを日本でも展開するようになり、しばらしくしてからマスターテーラーになりました」
接客も服作りもできる実力が認められて、世界でも数少ないマスターテーラーに認定された。オーダーメイドのジャンルも前職で経験していた。
「勤めていたブルックス ブラザーズ 青山にパーソナル オーダーのサービスがありました。顧客とのやり取りも日々の業務のひとつでした」
学生時代から続く積み重ねが、いますべて実を結んでいる。


仕立て、とくに縫製を仕事にしたい人に田さんからアドバイスがある。
「学生さんはいつも丁寧に縫うことを心がけましょう。意識しているだけで誰でも上手くなっていきます。当たり前のようですがいちばん大事なこと。僕は文化時代は遊び回ってたし、優秀な学生ではなかったけど縫うのは楽しかった。10年近く販売員だったときも縫うことをやめませんでした。好きなら続けられるでしょうし、いつか活かせるチャンスが訪れるかもしれません」
身につけた服作りの技術は、時が経っても手が覚えているもの。接客も相手の望みを理解してサポートする能力が身につく。培った経験が新しい仕事の可能性を導いてくれる。
※2025年7月取材
LINKする卒業生 ・藤田祐希 KLOOTCH代表 ファッション工科専門課程 アパレル総合科(現:インダストリアルマーチャンダイジング科)2009年卒業 https://www.instagram.com/klootch.jp/ 「ハンドメイドでレザージャケットを作ってる友人。数年前より自身の会社を運営して自ら制作しています。通っていたコースは違いますが学内で仲良くなって。それからずっと付き合いがあり、よく飲みに行く仲です」 |
記事制作・撮影
一史 フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。
Instagram:kazushikazu
関連サイト
-
リーバイス®︎の公式サイト。https://levi.jp/
-
リーバイス®︎の公式インスタグラム。https://www.instagram.com/levis_japan
INTERVIEW
リーバイ・ストラウス ジャパン
マスターテーラー
田 真行(でん・まさゆき)
服飾専門課程 服装科 2008年卒業
東京出身。高校卒業後に文化服装学院に入学。アメカジなどのリアルクローズを好み、ブルックス ブラザーズ ジャパンに入社。ショップ販売員を9年間勤めたあと、リーバイ・ストラウス ジャパンに転職。既製品のカスタマイズなどを担当するテーラーのひとりになり、2022年にマスターテーラーに就任。
INTERVIEW
リーバイ・ストラウス ジャパン
マスターテーラー
田 真行(でん・まさゆき)
服飾専門課程 服装科 2008年卒業
東京出身。高校卒業後に文化服装学院に入学。アメカジなどのリアルクローズを好み、ブルックス ブラザーズ ジャパンに入社。ショップ販売員を9年間勤めたあと、リーバイ・ストラウス ジャパンに転職。既製品のカスタマイズなどを担当するテーラーのひとりになり、2022年にマスターテーラーに就任。