バーチャル空間にファッションを運ぶ
次世代クリエイター

香港生まれのシト パクホさん。服の縫製やパターンを学ぶため日本にやって来た。文化服装学院で生活するうちに彼が見出した道が、メタバース(デジタル仮想空間)を歩き回るアバター(ユーザーの分身)の衣装をデザインすること。クリエイターをサポートするGeekOutに就職したシトさんの挑戦的なクリエイションを探った。
巨大なゲーム空間で
アバターたちが着る服をデザイン


GeekOutは主にゲームプラットフォームのRoblox(ロブロックス)のコンテンツづくりを行っている会社。漫画「ワンピース」「ドラえもん」のゲームなどの大手コンテンツの展開支援も手掛ける会社である。
Robloxとは一体どんな存在なのだろうか。アメリカで運営され2025年現在で一日のユーザーアクセスが約1億5千万とされる世界的なゲームプラットフォームである。一般の店で例えるなら、ここはショッピングモールのようなもの。ミニゲームから本格派まで多数のゲームが集まった巨大なゲームモールである。ナイキやグッチも参入して、ゲームのみならずファン同士のコミュニティの場も提供している。
ユーザーは自身のアバターを操作して様々なゲームを遊ぶ。どのゲームを遊んでも、使うキャラは原則としてそのアバターだ。つまりRoblox内ではずっと同じアバターを眺め続けることになる。それがお金を払っても着替られる衣装を買う人が多い理由のひとつだ。
Robloxは人との出会いの場でもある。アバターを通じて出会った人同士がコミュニティを築いていく。趣味の合う仲間を見つけるためにも、自己主張するにしても外見が重要になる。衣装の役割がとても大きい。
Robloxを知るわかりやすい動画が、以下のHikakinGames。このHIKAKIN、SEIKINのアバターを作ったのがGeekOutである。
【初ロブロックス実況】顔から逃げるゲームを兄弟でプレイしたらヤバすぎたw【ROBLOX】【ヒカキン&セイキン】【ロブロ】
世界の全ユーザーのうち約1/3が子どもという統計があるRoblox。デジタル・ネイティブ世代が大人になっていけばマーケットもますます広がるのだろう。


GeekOutは世界レベルのアバターを作れるクリエイターの育成に力を入れている。オフィスは国際色豊かで、海外のクリエイターたちがパソコンに向かい創作を続けている。25年に新卒で入社したシトさんも彼らの一員だ。
デジタルでのファッションデザイン

「GeekOutはオリジナルのアバター衣装のブランドである『TRENDEE』を立ち上げました。僕がそのデザインを担当しています。Roblox内で販売するオリジナルブランドは、GeekOutとして初の試みです」
そう話すシトさんは入社1年目にして重要なプロジェクトを託されている。現実に服を作れる人ならではのリアリティのあるバーチャルファッションを生み出す試み。身体を動かしたときの布の動き、全方向から見た姿の美しさ、モードやストリートのトレンドを取り入れたデザインといった要素を込めたアバター作りだ。シトさんは世界中のデジタルクリエイターが苦手としてきた領域に切り込んでいく。文化服装学院でアナログな作業でパターンを引き、布を縫い合わせ服を作ってきた彼だからこそ構築できるバーチャル領域を獲得しようとしている。

「Robloxのゲームプラットフォームを知ったとき、これこそ自分が進むべき道と思いました。『こんなゲームあるんだ!』と感動して。GeekOutはそんな自分の世界観を受け止めてくれる会社だと思い入社を希望しました」
そんなシトさんは香港に住んでいたときから、日本のゲーム、アニメ、映画、音楽に親しんできた。好きだったファッションはコム デ ギャルソンやヨウジヤマモト。両親がアパレル関係者ということもあり、ごく自然な発想で文化服装学院への留学を決めた。さらに、
「僕は中性的な服装が好きです。たまにけっこう派手な格好をすることもあります。でも香港でそんな装いをしていたら、皆からじろじろと見られてしまいます。でも東京なら誰もヘンな目で見てこない。そんな日本の居心地がよくてここで働くことに決めました」
香港に戻ることも、いま両親が住んでいるイギリスに行くことも考えていないそうだ。ファッション情報がすぐ手に入り、暮らす環境も整った日本で「3D/2Dアーティスト」として活躍することを夢見ている。
バーチャル世界に目覚めた
文化服装学院の新設コース
子どもの頃からゲームに親しんできた彼のセンスが開花したのは、文化服装学院の3年生のとき。アパレル技術科の2年生から3年に上がるとき新設されたバーチャルファッションコースを選んだ。
「このコースがあることを知り、もう一瞬で決めましたね」

パターンや縫製の授業を受けていても、得意なことを見つけられなかったときに差した一筋の光だった。
「同級生には服のパターンも縫製も優秀な人がたくさんいました。そのなかで自分はファッションの創造において得意なことを見つけられなかったんです。そんなときバーチャルファッションコースが新設されました。昔から『ファイナルファンタジー』や『エルデンリング』などのゲームが好きだったこと、デジタルで3Dのパターンやモデリングができるソフト「CLO(クロ)」を独学で使っていたこともあり、デジタルの世界が自分に向くと考えました」
さらに同コースでRobloxのアバターを作る授業に参加したことが、将来を定める決定打になった。

現在も続いているその授業は、GeekOutのスタッフが講師として指導している実践的なもの作り。シトさんがRobloxに可能性を感じたのも、GeekOutに出会ったのもこの授業である。
「Robloxにアクセスしていろいろと見て回ったら、アバターが着る服のマーケットプレイスに好きと思える服がありました。自分でもやってみたくなった瞬間です」



上の写真3点のトップは、クラス共同のバーチャル空間でのシトさんのコーナー。下の2点はデザインした衣装とイメージ空間。ファッションモデルのようなデジタル人物に衣装を着せて空間を想定し、ポップでかわいいアバター用の衣装に落とし込んでいった。
この授業がユニークなのは、デジタルから飛び出し現実の服にして卒業制作でショー発表したことにもある。

デジタルを専門に教える学校と、文化服装学院の大きな違いがここにある。バーチャル空間であってもリアリティを感じさせる表現力、デザイン力を身につけられることが、ファッション専門学校で学ぶ大きな優位点だ。
GeekOut代表が語る、
ファッション学校に望むこと

今回のシトさんのLINKS登場にあたり、GeekOutの創設者であり取締役の田中創一朗さん(上写真左)にも話を伺うことができた。まずはシトさんにどのような魅力を感じて採用したのか尋ねた。
「面接で彼に聞きました。『アバターアイテムを作り売ってほしいのだけど、売れなかったらどうする?』と。シトの答えは『大丈夫です。売れますから』。この自信を頼もしく思いました。僕も似たタイプなんです。いつも『大丈夫だろう、できるはず』と考えます」
ポジティブに仕事をする気持ちがメンバーに迎えるのにふさわしいと思われたようだ。続けて田中さんが次のように会社の姿勢を語った。
「GeekOutはクリエイターを支援する会社です。Robloxにおいて日本にはまだ海外に匹敵するデジタルのクリエイターが少ないのが現状です。まだ見ぬ未来のクリエイターを育てていかないと。だから社内で才能のあるクリエイター集団を作ろうとしています。社員であるシトも一流のクリエイターになってほしい。安定した職場環境を与え、会社が支えていくことが将来につながると期待しています。

電通グループと共に授業を請け負う文化服装学院の学生に望むことはなんだろうか。
「ファッションを知っていること、作れることがデジタルの分野でユニークな個性になります。現在のRobloxで販売されているアバターの服装のセンスには、リアルのファッションのノウハウを取り入れて発展する余地があると感じています。ファッションに詳しい皆さんが創造性を発揮できるいいチャンスではないでしょうか。その一方で、世界最大のバーチャル空間であるRobloxのカルチャーを知ることも大切です。空間内でのコミュニティも大きくなっていますし、Roblox独自のトレンドもあります。自身の作家性を発揮させる以前に、まずはこのプラットフォームを学びましょう。新しい価値観はそのあとに表現すればいいのです。芸術家だって、作品を買ってくれるマーケットがあるから生活できています。デジタルのファッションクリエイターも同じことです」
シトさんが模索した仕事の探し方も、GeekOut田中さんの含蓄のある話も、未来のファッションがあるべきひとつの姿を示している。現実の世界で個性的なファッションムーブメントが出現しにくい時代になったいま、デジタル・クリエーションに活路を見出す人がどんどん増えていくに違いない。
※2025年11月取材
LINKする卒業生 ・馬場美里 アパレル技術科 バーチャルファッションコース卒業 Leon勤務 https://www.instagram.com/_.gz/ 「文化での同級生です。OEM、ODM会社の企画部で、主にお客さまに求められた形や柄の提案をしています。展示会に向けてデザインを考えてサンプル作成したり、CLOの組み立てなども行なっています」 |
記事制作・撮影
一史 フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。
Instagram:kazushikazu
関連サイト
-
GeekOutの公式サイト。https://geek-out.io/
-
Roblox内でGeekOutオリジナルアバター「TRENDEE」 を販売するストア。https://www.roblox.com/communities/224898265/TRENDEE-UGC#!/store
INTERVIEW
3D/2Dアーティスト
シト パクホ
アパレル技術科 バーチャルファッションコース 2025年卒業
香港出身。高校卒業後に香港で就職し、ポスターのデザインなどを手掛ける。ファッションを作る夢を叶えるため来日し、語学学校に通い文化服装学院に進学。選んだコースは服の仕立てを専門に学ぶアパレル技術科。バーチャルファッションコースが新設されたのを機に3年次に同コースを選択。授業のなかでイマーシブコンテンツを手掛けるGeekOutと出会い同社に就職。
NEXT
次回のVol.52は、ミルクフェド(ビーズインターナショナル)でPRスタッフとして活躍している髙橋栄那さん。ルック撮影からイベント企画まで幅広い仕事をこなす彼女の日常にフォーカス。
INTERVIEW
3D/2Dアーティスト
シト パクホ
アパレル技術科 バーチャルファッションコース 2025年卒業
香港出身。高校卒業後に香港で就職し、ポスターのデザインなどを手掛ける。ファッションを作る夢を叶えるため来日し、語学学校に通い文化服装学院に進学。選んだコースは服の仕立てを専門に学ぶアパレル技術科。バーチャルファッションコースが新設されたのを機に3年次に同コースを選択。授業のなかでイマーシブコンテンツを手掛けるGeekOutと出会い同社に就職。


