MARL KOUSAKA

ファッションデザイナー
マール コウサカ

 

ネットで出会ってファンになるECブランド、foufouの創設デザイナー

 

文化服装学院の卒業生たちの現在を追う、“文化つながり”のインタビュー集「LINKS(リンクス)」。今回登場するのはビジネス界でも熱い注目を集めるマール コウサカさん。日本のアパレル界の常識や慣習から外れ、自身のブランドで道を切り開くコウサカさんの語りには、デザイナー志望の人やブランドを立ち上げたい人が目からウロコのヒントがたっぷり!

Ⅱ部服装科に通いながらはじめたブランド

 

foufouのイメージルックより。フェミニンでタイムレスな佇まい。

 

コウサカさんが学生時代にはじめたfoufou(フーフー)が、2022年に新たなステージへと大きく歩みを進めた。初の実店舗の「the boutique」を、東京・祐天寺に8月オープン。続く9月には東京・伊勢丹新宿店でポップアップショップを開催。インターネットでの販売を主軸にするブランドが、ラグジュアリーな品揃えの伊勢丹に進出するのは珍しいこと。ファッションシーンでfoufouが注目されていることがよくわかる出来事だ。

スタンダードと呼ぶべきかクラシックと呼ぶべきか、foufouの洋服は着る人の日常に自然に溶け込む。客層も派手好みのファッショニスタより、穏やかに内面世界を大切にする人が中心のようだ。デザインについてコウサカさんが以下のように語った。
「僕のルーツは工業製品にあると思います。家具デザイナーの柳宗理さんや無印良品のアートディレクターの原研哉さんらの仕事への興味が大きいですから。タイムレスでシンプルで長く使えて、服はあまり肌の露出のないもの。もともとクラシックなものが好きだったから、アーミッシュ(電気も使わず自給自足で生活するアメリカの思想集団)のスタイルも混じってますね」

foufouのイメージルックより。古い時代に存在していたかのようなクラシックモダン。

 

「foufouに『THE DRESS』というシリーズがあるのですが、イメージする世界は平原にひとりの女性がドレープの入ったドレスを着て歩いているシーン。この光景は自分のなかに昔からずっと存在するものです。もうひとつミューズともいえる存在が僕の祖母です。いつも素敵な服を着ている人でした。年取ってからもずっと着られるお洋服という考え方は、foufouのテーマにもなってます」

foufouは「健康的な消費のために」をブランドの軸に据えて活動している。価格は手に届きやすい設定。一般のECブランドと大きく違う点は、「つくり手の顔が見える、客との対話のある接客や商品説明」といえるだろう。いい服を一着つくったらサイトにアップし、「なぜそれをつくったのか、どんな役割があるのか、どんなおしゃれができるのか」を言葉で丁寧に解説する。ファンはSNSで告知される新作の到着を待ち望み、できたときには真剣にアイテムと向きあう。foufouはインスタライブも活用し、リアルな体型のスタッフが着て顧客とやり取りする。コロナ禍での工場の稼働停止のような生産ハプニングにより販売が遅れるときは、正直に起こった出来事を語る。全国で開催される試着イベントのときは、コウサカさん自身が店頭に立ち熱心に接客する。

友人がつくった服を着るような親しみのあるブランド。客のなかには応援する気持ちで購入して愛用する人もいるだろう。インターネットなのにローテクな温もりを実現させたのが、システム構築も含むコウサカさんのデザイン力だ。

心地いいコミュニケーションを考えた予約制の店

 

オープンさせた店の敷地面積はわずか4坪。祐天寺の商店街の一角にひっそりと佇む。予約制で平日の午前中だけは一般開放。でも特別な顧客を囲い込むといった会員制のサロン的な店とは目的が異なる。

「服の店で店員さんと話すのが苦手な僕が、なぜスターバックスに行ったときのような心地よい会話ができないのかを考えました。結論としてスタバは客が積極的に注文して、店がそれに答える形だから成立するのだと気づきました。つまり服の店も“ご用命型”になれたらいいのです。話すきっかけがあれば、店側から客にアプローチする不自然なコミュニケーションにならずに済むはず。そこでfoufouの店はカウンターに革張りのブックを置き、気になる商品をそこから選んでいただくようにしました。店内には商品をほとんど置いていません」

内装の質感にこだわりオリジナルで家具をつくった4坪の店。

店で試着してネットで購入する流行りのショールーミング型ではなく、客はその場で購入して持ち帰れる。そこは一般的な店と同じである。

「実は店の建物の3階も借りまして、そこに在庫を置いてるんです。スタッフはお客さまのリクエストを伺い商品を上に取りに行きます。お客さまの側からオーダーしてスタッフがそれに答えるから、いい雰囲気のコミュニケーションが生まれます。ここには『ゆっくり沸き立つもの』があります。インターネットの衝動的な現象に慣れている僕らからすると、ゆっくりしたペースがすごく新鮮。とくにコロナ禍以降に世の中でインターネットコンテンツが増えて、移り変わりも激しくなってきました。この動きについていくのがfoufouだからこそむしろ、いつでも帰れる家のような場所があることがよくて。いちばん遅いもの、流されないものが、現在のブランドの方向性にも影響を与えていると思います」

コウサカさんがこのように語るように、風潮に惑わされず自身の足元を見つめて軸をブラさないことが、時代とともに生きるファッションブランドに必要なことなのだろう。

愛嬌のあるスタッフが常駐して接客。

彼が望む店の役割はどのようなものだろうか。

「いまってインターネットでつながりすぎちゃう時代なんだと思います。コミュニティができるのは素晴らしいのですが、一方でそこから嫌われたり排除されることへの不安も増しています。僕はその現象が健全だと思っていません。店は孤独でいることの楽しさや、“つながりすぎない”コミュニケーションを生んでくれる存在と考えています。バーのようにたまに行く、行きつけの場所であれたら。家族でもなく友人でもなく会社のしがらみでもない、ゆるいつながりのある場所。the boutiqueがそういう店になってくれたら、僕らは社会的大義としてブランドを続ける意義があると思っています」

コウサカさんが言う“意義”は、彼が学生時代から考え続けている重要なテーマ。foufouは社会と結びつく意義のある存在だからこそ、他業種からも注目され、幅広い人々から支持されるようになったのだろう。

祐天寺の商店街と共存する店。

伊勢丹新宿店でのポップアップ

22年にネットからリアルへ飛び出していく構想に一役買ったのが、伊勢丹新宿店でのポップアップショップ。伊勢丹からの声がけがきっかけになり、9月に形になったイベントだ。

伊勢丹新宿店 本館2階 イーストパークにて開催。メインディスプレイはサーキュラースカートのワンピース。

5メートルの布をたっぷりと使った、デザイン的にインパクトのあるサーキュラーウエアをメインに打ち出した。ここにもコウサカさんらしい、状況を分析したクリエーション発想が息づく。

「伊勢丹のお客さまはfoufouをご存知ないかたが多いと考えました。『健康的な消費』や『日本でのモノづくり』といったブランドを語る文脈のなかから、初見の人にもわかりやすいものを切り出して提示することにしました。ユーモアやチャーミングさもすごく大事にしてますから、展示で迫力を出せるサーキュラーのフレアを立体にしてインパクト勝負。以前からのお客さまからの反応もポジティブで嬉しかったです」

ポップアップショップでは多様な人たちがfoufouのクリエーションに触れた。

奇をてらわない服が主軸のfoufouが先端ファッションの聖地ともいえる伊勢丹新宿店にやってきて、エッジーなファッション層にもアピール。ブランドのあり方はこれまで通りでも、客層が広がりファッション界での位置づけも変化したに違いない。

“サードドア”を探す考え方は学生時代から

コウサカさんは大学を卒業してから文化服装学院Ⅱ部服装科で学んだ。「食いっぱぐれのない仕事を手に入れる」ことが入学の目的だった。入学するやその足で就職相談室に行き、昼間に働けるアパレルメーカーの募集を探した。たとえアルバイトでも昼間にフルタイムで働けば、生産管理や企画について学べるはず。夜は学校でモノづくりの技術を身につければいい。
「働いたバイト先が、昔ながらのミセス向けのアパレルメーカーだったのがとてもよかったですね。仕様書の見方やサンプル管理の仕方などを経験できましたから。文化服装学院に入ったのは、つくれることがその後につながると考えてのこと。アメリカのテック企業のアップル(Mac)を創設した故スティーブ・ジョブズが、家のガレージでのパソコンづくりからキャリアをスタートさせたように」

3年間文化に通いクラスメートと交流するうち、彼の頭には独自のブランドづくりの構想が固まっていった。

「クラスは凄い服をつくる人たちばかりなんですよ!僕からすると天才と思えてしまう実力。『この人たちの服を見せるべきところに見せられたら』とずっと考えてました。要は、売り方の問題。売り方が下手だとどんな服も世に出ません。それでは自分がブランドをやるなら、『誰がどんな服なら買ってくれるのか、誰が僕のブランドを必要としてくれるのか』を考え続けた3年間でしたね。やるからには社会的意義のあるものでなければならないとも思いつつ」

「さらに、ただかっこよくお洒落な服は前の時代で完結してるとも思ってました。『僕以前の人たちがつくってくれた』という考え方です。大量生産のファストファッションの次に来るものはなにかも考えました。ブランドを立ち上げたい、デザイナーになりたいと語る人は多いけど、まず“動機”が先に来るべきでしょう」

こうして在学中にインターネットでハンドメイドの服をSNSで販売するfoufouをスタート。人がやっていることと同じことをせず、別の道に進む“サードドア(裏道)”を見つけるのが彼の生きる道だ。

foufouのイメージルックより。伊勢丹新宿店のポップアップショップに来店した老齢の女性に、コウサカさんがお願いしてモデルになっていただいたもの。

ブランドづくりで大事なのは“動機”

コウサカさんがブランドづくりの秘訣を語ってくれた。

「もっとも大切なのは“動機”。なんでやるのかの根本的な考えです。それを形にするための手段はたぶんなんでもいいんです。「モノのよさ」「動機」「売りかた」の3つがすごく大事だと思っています。ただしモノは頑張ればよくなるし、売り方だって変えていける。でも動機だけはあとから変えられません。だからfoufouではなにかを試みるとき必ず、『本当に動機が合ってる?』と深く考えます。一着の服をつくるときもまったく一緒です」

社会人経験者は誰もが膝を打つ話だろう。まだ未経験の学生はこの話をどのように自分自身に取り入れたらいいのだろうか。

「社会に対して、『自分がつくるものがなにをもたらすのか』を考えるといいでしょう。それを考えることは、いまの社会全体を考えることにつながります。そこから逆説的に自分の動機が生まれるはずなんですよ。難しいようですが、実はけっこう簡単。まず、自分がやりたいと思ったものをつくります。それがなぜ好きと思ったのかを書き出し、人と話して明確にしておく。なぜこれをつくったのか、なぜ思い入れがあるのか、それらを紐解いていくと自身のバックボーンの芯があるはずなんですよ。そんな枠組みをつくることがデザインの本質なんです」

サンプル製作用ミシンや裁断機が並ぶ、東京・八王子にあるアトリエにて。

コウサカさんは将来のfoufouの姿も思い描いている。
「日本流の大衆ファッションをつくりたい。日本に西洋の服がやってきて70年ほどが経ち、土着的ににじみ出ているはずの東アジアらしいお洋服を。和服をモチーフにする発想ともちょっと違います。この服を海外の人が見て面白がってもらえたら、日本でつくるお洋服のブランドとして正しい道だと思うのです」

その実現を「仏教でいう『天竺』のように遠い夢のような世界」と語るコウサカさん。しかし彼の7年間の活動が挑戦の連続だったことを思うと、近い将来実現されるかもしれない。サードドアを探しつつ枠組みを広げる、次世代クリエイターのネクストから目が離せない。

※2022年11月取材。

 

 


LINKする文化生

・松岡 歩(Ⅱ部服装科時代の同級生)
伊勢丹新宿店(伊勢丹三越)メンズ館 コミュニケーションデザイン担当
www.imn.jp

「2年間一緒に授業を受けていた人です。大学に通いながらの正統派のダブルスクールという、僕とは違う圧倒的な差(笑)。就職するときたくさんの一流メーカーに受かりながら、『販売が好き』という理由で伊勢丹の販売員を選んだ姿勢もカッコよくて。その後バイヤーなどのさまざまな活躍をしています」

記事制作・ポートレート撮影
一史  フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。

Instagram:kazushikazu

 

関連サイト

INTERVIEW

ファッションデザイナー
foufou
マール コウサカ
II部(夜間部)服装科 2016年卒業

1990年生まれ。東京都出身。大学卒業後、文化服装学院の夜間コースに入学。2016年、在学中にEC専売のファッションブランドfoufouを立ち上げる。SNSでダイレクト販売する独自のスタイルが話題を呼ぶ。20年10⽉、著書「すこやかな服」(晶⽂社)を刊行。22年8月、オンラインストア「the museum foufou 」オープン。同年9月、実店舗「the boutique」オープン。

NEXT

Vol.018

SHEETS・テーラー 森田 智

ファッション工科専門課程 メンズデザインコース卒業

INTERVIEW

ファッションデザイナー
foufou
マール コウサカ
II部(夜間部)服装科 2016年卒業

1990年生まれ。東京都出身。大学卒業後、文化服装学院の夜間コースに入学。2016年、在学中にEC専売のファッションブランドfoufouを立ち上げる。SNSでダイレクト販売する独自のスタイルが話題を呼ぶ。20年10⽉、著書「すこやかな服」(晶⽂社)を刊行。22年8月、オンラインストア「the museum foufou 」オープン。同年9月、実店舗「the boutique」オープン。

NEXT

Vol.018

SHEETS・テーラー 森田 智

ファッション工科専門課程 メンズデザインコース卒業