RYUICHIRO YOKOI

SHINYAKOZUKA
アトリエスタッフ
横井隆一郎

大学卒業後に文化へ、
インターンからシンヤコヅカに

文化服装学院に進学しなかったら、体育教師や運動コーチになっていたかもしれない人生。スポーツ推薦で大学に入り運動に明け暮れた日々を過去に追いやり、服づくりに集中した2年間。卒業後のいまはクリエイティブなモードブランドのシンヤコヅカで働く。タフな根性と繊細なセンスを併せ持つ横井さんの人生と、夢中で追い続けるファッションの現場をレポート!

アトリエに併設するショップにて

「なんでもやります。それが小規模な会社の楽しさ」
そう語る横井さんのデイリー業務は幅広い。シンヤコヅカの服づくりをサポートしつつ、マンション内のアトリエに併設する直営店で接客販売も行う。さらにスタイリストへのリース対応やイベント告知などのPR業務も彼の担当だ。デザインが商品になり、発表したコレクションがメディアに流通する場にまで日々接している。
「小塚信哉(こづか・しんや)デザイナーを含め社員は現在4名です。アルバイトやインターンの人を加えても全部で10名ほど。分業で割り切れる仕事ではありません」

直営店「SMALL TRADES」では販売業務も。

毎週金〜月曜日までの4日間のみ営業する直営店では、客がいる時間に販売スタッフも兼任。服をよく知るアトリエスタッフによる接客スタイルだ。
「店では基本的に僕と、もうひとりのアルバイトの人で販売を担当しています。彼もアトリエでのインターン経験があるとても信頼できる人です」
東京発信メンズで世界のモード界から熱い目線が注がれるシンヤコヅカ。確固たるスタイルを持つ素晴らしいクリエーションのブランドには、ポジティブな熱意ある人が集まるのだろう。もちろん横井さんもそのひとりだ。

SHINYAKOZUKA 2024年春夏ランウェイショー。会場は東京体育館のサブアリーナ前。

コレクションルック。

アトリエワーク、
「実物パターンに触れる喜び」

日常のメインになる仕事内容は、服が商品化される過程におけるデザイナーのサポート。
「基本は、1. トワル縫製、2.パターン修正、3.生産管理です。アイテムの種類ではニット、カットソー類を主に担当しています」

アトリエにてトワル縫い。
縫う作業はお手のもの。

シンヤコヅカの服づくりは仮縫い用のシーチング布でトワル(試作)を組み、人が着て修正していく昔ながらの正統派。重要なトワル縫いも横井さんの役割だ。この作業にも大きな喜びがある。
「実際の服になるパターンを見られるんですよ。服の構造好きにはたまらない仕事です」
文化時代に毎日苦労して腕を磨いたミシン縫いの技術がしっかり役立っている。裏方としてブランドづくりをサポートすれば、いつの間にかブランド運営の知識や経験も身につく。将来に自分のブランドを持つことを夢見る彼には、手広く手掛けるこの現場が肌に合うようだ。

小塚デザイナーによるスタッフのポラ撮影。下段左端が横井さん。

横井さんは3Dでパターンから着用姿までシュミレーションできるソフトウエアの「CLO/3D」を扱うスキルも持つ。縫製工場で使われる2DのCADシステム、「フォトショップ」や「イラストレーター」などのビジュアルソフトウエアも得意分野だ。これらはすべて文化時代に学校や独学で身につけたもの。「なんでもやる」のは「なんでもできる」からでもある。

文化時代、
「1年めは修練の日々、2年めからは無双状態!」

服づくり、ブランドづくりを仕事にする明確な目標を立て、「なにを学ぶべきか」を徹底的に突き詰めた文化での生活。大学卒業者だけが通う1年間コースの服飾研究科を経て、技術専攻科に進み次の1年間を過ごした2年間だった。このうち最初の1年間が苦労の連続だったようだ。
「アパレル産業を何も知らず、ブランドをつくりたい思いだけで入学した文化。ファッションの仕事経験のある人も多いクラスのなかで、もっとも低い立場からのスタートでした。服飾研究科は1年間でスカート、ワンピース、シャツ、パンツ、ジャケットまで仕立てます。ゼロから学ぶのだから縫製に手を抜けるかと思いきや、先生の課題チェックがすごく厳しく(笑)。ダメなところを細かく指摘され、1日もサボれない日々でした。でもハードだけど基礎からしっかり教えてもらえるのが服飾研究科の素晴らしさ。周囲のクラスメートも意識の高い人ばかりでしたし。そんな生活が翌年に進学した技術専攻科で身を結びます。もう服づくり無双状態!(笑)。なんでも短時間でパパッとこなせるようになりました。1年目ではバラバラだったパズルのピースが、かちっとハマりクリアになった瞬間です。調子に乗って卒業制作では1体だけつくればいいところを5体もつくちゃったほど」

技術専攻科 卒業制作5体のデザイン画。

作品を着てショー出演してくれた同級生らの仲間たち。

卒業作品をランウエイ形式で発表。

忙しい日々でもリアルな現場体験が必要と考え、シンヤコヅカにインターンで参加するようになった。
「大好きなシンヤコヅカがインターンを募集していると知り、人づてに応募してアトリエに通わせていただくようになりました。午後に授業がない水曜日や、土曜日の勤務です。入学して2ヶ月目の6月にはすでにここにいました」
入学前から計画していた憧れブランドでのインターン。掃除、倉庫整理、出荷などから手伝いをはじめた。現場でパソコンを扱うスキルが必須と知り、学校でもパソコンを積極的に使うようになった。CLO/3Dの習得にも挑戦した。
「文化はデザイン、パターン、縫製をとても丁寧に教えてくれます。ただ学校ですからリアルタイムで移り変わるアパレル産業のワークフローまで実感するのは難しいでしょう。世界に名が知られる文化に入学したことで、そのブランド力に安心しきってしまう人もいると思います。でもこういう言い方をするとナンですが、『文化に入ったらまず文化から出よう』と。有名学校の名前に甘えてはいけないと思います。課題が忙しすぎてインターンまではできないなら、ファッションショーの裏方のフィッター(着せつけ係)など文化に募集が来たとき逃さず参加するといいでしょう。僕の場合は服飾研究科のクラスメートの熱意がすごく高くて、入った瞬間に『ヤバい!』と焦りましたから。そのことが積極性につながるいい刺激になりました」

文化つながりで実現させたい将来の夢


「ファッションブランドをつくるならまずは服の勉強を」
そのように考え、大学卒業後に文化へ進学。子どものころから服が好きで、父親がOEM(他社ブランド製造)の会社を経営していることもファッションに気持ちが向かうきっかけになった。
いまシンヤコヅカの一員であることを誇りにする横井さんには、将来に実現したい夢がある。それは文化の同級生の仲間たちとブランドを立ち上げること。
「卒業ショーで僕の服を着てくれた友人たちを含め、大勢の文化つながりの仲間がいます。皆本当に仲がよくて、卒業して別の仕事をしていても定期的に集まり飲み会を開くほど」

文化つながりの友人たち(横井さんの父親と、同じ技術専攻に通う現文化生の弟含む)との飲み会スナップ。


「実は父親の会社で働いている同級生もいます。父親は身内ながら、『こんな社長いないだろ』と思うほどの個性的な人(笑)。面倒見がよく嬉しいことに仲間たちにも信頼されて、『いつかこの会社で皆でブランドをつくりたいね』と語り合ってます」


苦楽をともにして刺激し合い、ライバルでもあった文化つながりの友人たち。独自の経験値とスキルを身につけて再び集結したとき、強力なシナジー効果で新しいファッションを創造していくのだろう。「諦めないド根性さえあればなんとかなります」と横井さんは言う。自分の道を真剣に追求すれば、きっと誰でもその先が見えてくる。

※2024年1月取材


LINKする卒業生

・ロ・シュンケツ(ファッション工科専門課程 アパレル技術科卒業)

「父が経営するファッションのOEM会社で働く、すごく仲良しの人。会社の設備であるソフトウエアのCLO/3Dを僕に教えてくれた師匠でもあります」

・田中龍成(服飾専門課程 服飾研究科 卒業)

「服飾研究科の同級生。彼も父の会社で働いてます。CLO/3Dを一緒に学んだり、学生時代もいまも活動をともにする大切な仲間のひとり」

記事制作・撮影
一史  フォトグラファー/編集ライター
明治大学&文化服装学院(旧ファッション情報科)卒業。編集者がスタイリングも手がける文化出版局に入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。撮影・文章書き・ファッション周辺レポート・編集などを行う。

Instagram:kazushikazu

関連サイト

INTERVIEW

SHINYAKOZUKA アトリエスタッフ
横井隆一郎(よこい・りゅういちろう)
服飾専門課程 服飾研究科/技術専攻科 2023年卒業

愛知出身。水泳のスポーツ推薦で岐阜の大学に通う。ファッションの道に方向転換して文化服装学院に進学。在学中よりシンヤコヅカでインターンしてフランス・パリの展示会に同行するなど関係を深める。23年より同ブランドを運営するSMALL TARDESに入社し正式な一員に。

NEXT

Vol.031

ユナイテッドアローズ 新宿店 DXセールスマスター 仲 希望

ファッションファッション流通専門課程 スタイリスト科(現ファッション流通科 スタイリストコース)卒業

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SHINYAKOZUKA アトリエスタッフ
横井隆一郎(よこい・りゅういちろう)
服飾専門課程 服飾研究科/技術専攻科 2023年卒業

愛知出身。水泳のスポーツ推薦で岐阜の大学に通う。ファッションの道に方向転換して文化服装学院に進学。在学中よりシンヤコヅカでインターンしてフランス・パリの展示会に同行するなど関係を深める。23年より同ブランドを運営するSMALL TARDESに入社し正式な一員に。

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ユナイテッドアローズ 新宿店 DXセールスマスター 仲 希望

ファッションファッション流通専門課程 スタイリスト科(現ファッション流通科 スタイリストコース)卒業